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Side ALAN
シーツにくるまって眠っているのかと思えば、音もなく薄いまぶたが持ち上がった。
音もなく、というのは現実に言うとそうなだけであって、俺の頭の中ではむしろ、ふわり、とかいう音が聞こえるほどに、その長いまつげは優雅に空気を切った。
その音は、外で激しく降る雨の音よりもはっきりと聞こえて、美しかった。
じっと天井を見つめていたAの濡れた黒目が俺を捉えて、見惚れていた俺ははっと息を呑む。
『…亜嵐、』
不思議そうに首を傾げながら名前を呼ばれて、ごまかすようにベッドから立ち上がった。
窓ガラスを打つ雨がやんでしまうよりも先に、あっという間に朝がおとずれた。
たった一度の、過ち。
大人と大人の割り切った関係。
もう二度と、会うことはないだろう。
そう自分に言い聞かせる。
「…目、さめた?」
『うん』
頷きながらシーツを両手で肩まで引き上げる可愛い仕草に、寒いのかと問えば、今度は首を横に振った。
雨は時々激しさを増し、時々緩く優しくはなるけど、昨夜からずっと降り続いていた。
「やまないな」
窓のそばに立って下から覗き込むように空を仰ぐ。
灰色の空を確認して、部屋の中に視線を戻すと、Aは俺の独り言ともとれる言葉に黙ったまま頷いて、口元に弧を描いていた。
「なにがおかしいの?」
『…おかしいんじゃなくて、多分、うれしい』
Aはさっきの俺と同じように窓を見上げて口元をさらに緩める。
雨の日の室内は薄暗いから、カーテンは引いていなかった。
カーテンで隠していない一見オープンにも見える空間の中は、俺とAのふたりだけ。
『雨の中に閉じ込められてどこにも行かなくてもいいなんて、嬉しくない?』
「……だな」
『本当に全部、綺麗に流れちゃったみたい』
にこ、と笑う。
あまりにも綺麗なその顔につい、見入ってしまう。
笑えないのかと思っていた。
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∵ R ∵ - 玲於くんがかっこよすぎて、涙が止まりません…(感泣) (2017年4月10日 22時) (レス) id: bc068a0168 (このIDを非表示/違反報告)
光(プロフ) - 玲於の話好きです。 (2017年1月4日 15時) (レス) id: 37f184468a (このIDを非表示/違反報告)
マダムムラサキ(プロフ) - 風すけさん» ありがとうございます!!読ませていただきます (2016年8月5日 21時) (レス) id: cdbc4f2c0b (このIDを非表示/違反報告)
風すけ(プロフ) - こんにちは、おそくなってすみません。そうですね、なかなか300まで遠いです。今、新しい小説を書いているのでゆっくり300を目指そうと思います。新しいのを見たいって言っていただけてすごく嬉しいです。ありがとうこざいます! (2016年8月5日 17時) (レス) id: 9031f63977 (このIDを非表示/違反報告)
風すけ(プロフ) - 遅くなってごめんなさい。リクエストありがとうございます。了解しました! (2016年8月5日 17時) (レス) id: 9031f63977 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風すけ | 作成日時:2016年3月9日 15時