ベッドタイムストーリー [JW] 短編集

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「あ、私の」

「さっきはどうもありがとうございました」


「ということは…」

「そういうことになりますね？笑」


「スーツって…」

「全然問題ないです、クリーニングに出せば良いだけですから」


「じゃあクリーニング代だけでも出させてください。えっと…」

「いやほんまに！大丈夫なんで」


「でもこのままだと貸しが…」


「ハハッおもろいこと言いはりますね笑
じゃあ…お名前。何ですか？」

「(名字)です」


「名字ちゃう、下の名前」

「…Aですが」


「(名字)Aさん。貴女らしいお名前ですね。僕は中間と申します」

「中間、さん。下のお名前は…」



「それはまた後でにしましょう。

Aさん、僕と1杯。付き合うてくれますか？」



彼の茶色い瞳と目が合うと吸い込まれるような気持ちがして
さっきまで帰ろうと思っていたのが嘘のように


「…はい」


震える声で答えていた



「ほなこっち行きましょうか」


彼にリードされ人混みをかいくぐる



バーカウンターの1番端まで来たけど
やはり騒音や煌めきはなくならない


何より遠目で私たち2人、というより中間さんを見ている女性がたくさんいて
私を見ては醜く鼻で笑ったりヒソヒソ話したりしている

それがどうにも居心地が悪くて思わずまた俯いた



「Aさん？」

「はい？」


中間さんに呼ばれて即座に顔を上げる



「場所。変えましょうか」

「いや、でも中間さんにご迷惑おかけしてしまうので」



「僕はいいんです、気にしないでください。
…というか、実は僕もここの雰囲気あまり得意ちゃうんで笑」


私の耳元に小声で呟いてから悪戯っぽく笑う中間さん



「じゃあ…お言葉に甘えて」



2人で席から立ち上がると不意に左手を包み込まれる

驚いて中間さんの顔を見ると



「人混みで迷子になったらいけませんから。ね？」


そのまま引っ張られて会場を後にした




外に出ると人の熱気に圧倒されていた身体がスーッと冷えていくのを感じ
思わずため息を1つ


「どうしましたか？」

「え？あ、いや。ただ外に出られて嬉しいなぁと」


「なら良かった、僕と出るのが嫌なのかと」

「いえいえそんな！…嬉しいです、あんなことしてしまったのに」


「僕も嬉しいからいいんですよ」



「あの…中間さん」

「ん？」



「手、いつまで…」



「ああ。…あかん？」

「いや、あかんくはないんですけど」


「ならもう少し。こうしといてもええ？」

「…はい」



満足げに頷いた中間さんはもう1度私の手を握り直して軽く揺らした

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