ベッドタイムストーリー [JW] 短編集

〜Can I Have This Dance〜 ページ33

庭の一角
木々に囲まれた開けたスペース

そこの芝生で彼がよく黄昏ているという噂を
執事たちの世間話で漏れ聞いた



少しヒールのある靴で芝生を踏みしめ木々や茂みをかき分け進むと
やはりそこには見慣れたシルエット

足を伸ばして座り、ぼんやりと空を眺めている



「…望？」


ビクッと振り返り慌てて立ち上がる
ズボンを軽く払いながら冷静を取り繕った



「…失礼しました、お邪魔して申し訳ござ」

「ううん。望とここにいたい」



「…あの。先程からなのですが、業務中は小瀧です」



「でも前はそんなこと言わなかったじゃん。
2人きりの時はあの頃みたいにお互い下の名前だったのに

今は名前すら呼んでくれない。なんで？昔はもっと」





「昔のことばっか言うなや！


…もう変わってん。俺らの関係は」





急に大声を上げてから悲痛な声を絞り出す望

思わずビクッとするとそれを察して
しまった、という風に俯く




「…ごめ、ちゃう、申し訳ありませ」



「いいの。望が久しぶりに感情見せてくれて嬉しかった」

「…申し訳ございません」




「望…私、寂しいよ」




1歩近づくと俯いてはいるけど逃げられはしなかったから
また1歩、さらに1歩

ついに手を伸ばさなくても彼に触れるくらいの距離




「もっと前みたいにバカみたいなことで喧嘩したり笑ったり
お互い相談したり励ましあったりしたい。
もっと望が思ってること知りたい、のに…

…私のこと、嫌いになった？」




答える代わりに望は小さな声で呟いた



「何で…俺、なん」





「…パパは私の気持ちなんてどうでもいい
他の執事は私が言ったことは全部パパに言っちゃう。
友達なんてこんな家に住んでたら出来ないし
明日旦那さんになる人だって勝手にくっつけられた他人。


…私には望しかいないの。

本当に私のことを見てくれる人は望だけなの」





言っているうちに涙が出て来た


私はなんてひとりぼっちなんだろう。





「でも、私のこと嫌いならいい。ごめんね、ありがとう」


泣いていることを悟られないよう俯いたまま
無理やり声を明るくし家へ戻ろうとすると







「嫌いや」







望が放ったその4文字に思わず足が止まる









「…そうやって無理しとるの見るの、嫌いや」







後ろからゆっくり足音が近づいて来て
綺麗に磨かれた靴は私の目の前で止まる

アイロンされたハンカチをスッと差し出され





「ひとりぼっちちゃうよ、Aは」





久しぶりに彼から投げられたそんな優しい言葉に
また余計に涙が溢れた

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