なないろメロディー [JW] 短編集

・ ページ23

家に帰る途中もずっとタカヒロくんの笑顔を思い出す

その度に胸が温かくなるのはそういうことなのかな、と薄々気づき始めている



「…明日。ちゃんと言おう」


私はそう決めて走り出した









それ以来、タカヒロくんに会うことはなかった









次の日屋上に行っても誰もいなかった

次の日も、またその次の日も。



変に思った私はまたすっかり仲良くなった周りの友達にさりげなく聞き始めた
この学校にタカヒロって名前の人いたっけ？って。


すると決まってこう返ってくる



『…いたっけ？』

『本当にいるの？勘違いじゃない？』




1回日直なのをいいことに職員室で全学年の名簿を調べたことがある


“タカヒロ”という名前はどこにもなかった







そんなこんなでタカヒロくんがいなくなって2週間

その日は突然来た



たまたま当番で1人で校長室を掃除していた時
それを見た瞬間目が釘付けになって身体が動かなくなった




「…な、んで」





だってそこには





写真の中で今より少し若い校長先生と楽しそうに肩を組んでピースする


タカヒロくんがいたから






「君？」

「はい！？」


「どうしたんだ？」

「あ、いや、すいません！その…」



「ああーその写真。いい写真だろう？」


あんなにじっと見ていたにも関わらず
校長先生は怒るどころか優しい顔をして私の隣に立った




「この人…私、会ったことあります」




「…ええ？」


怪訝そうな顔をする校長先生




「そんな訳ないだろう」

「何でですか」







「この生徒は私がまだ校長ではなかった頃の生徒だ。







在学中…ちょうど30年前、彼は亡くなっているよ」









その次の日

緑が生い茂るのどかな街で私は手を合わせていた



「タカヒロくん…お元気ですか」






あの後固まっている私のために卒業アルバムを出してくれた先生


『ほら。ここにいるだろう？濱田崇裕くん』

『はまだ、たかひろ…』



初めて知る彼のフルネーム

写真の中で無邪気に笑っているのは間違いなく彼だ



『そうか…不思議なこともあるものだな。よかったらこれも見るか？』



そう言って渡してくれたのがこの学級日誌だった



授業の文句や他愛もない友達とのやりとりで埋め尽くされている彼のページ

ある日のページでそれは急に変わった




『先生…俺な、病気みたいやねん。もうあんま生きられへんねんて』





それ以降の数ページはずっと病気の話
読んでいるだけで暗くて苦しくて辛かった


でもそれも急に終わりを告げる

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す