ANGEL・KISS / Hokuto.M 【3】

・ ページ4

終業後、玉森さんに借りたスーツに着替える。





桃瀬さんは準備があるからと、最寄りの駅で待ち合わせになった。用意も終わり、更衣室を出ようとするところで藤ヶ谷さんが戻って来た。






『藤ヶ谷さん、お疲れ様です』





「お、お疲れ！ん？今日って･･･」






レセプションに参加することになった経緯を説明する。





「それなら髪･･･もうちょいセットして行った方がいい」






そう言われて悩んだ挙句、藤ヶ谷さんに借りたワックスで半分だけ前髪をオールバックにした。






「ん、いいじゃん。たぶんこれでナメられない」






オールバックは正直あんまり似合わないからどうかと思っていたけど、藤ヶ谷さんにお墨付きをもらえたからよしとしよう。






「Aのこと、頼むな」







肩をぽん、と叩かれる。
藤ヶ谷さんまでこう言うのなら、いつも声をかけられているんだろうなと容易に想像がついた。






これから会議だけど困ったことあったらいつでも連絡していいから、と藤ヶ谷さんの連絡先を教えてもらう。

社用ではなく私用の方。



新入社員の社用携帯は来年になってからの支給だから、俺はまだ持っていない。自分のスマホに登録する。



そういえば、いつもはほとんど同行だから連絡する必要はないけど桃瀬さんの連絡先知らないな、と気付く。

･･･今から待ち合わせなのに。







「あいつ、しっかりしてそうでこういうとこ抜けてんだよな」






藤ヶ谷さんに教えてもらって桃瀬さんの登録も済ませる。私用の連絡先。ただでさえ少ない俺のスマホの連絡先に輝きが見えたような気がした。







.







駅には待ち合わせ時間よりも随分前に着いた。
金曜日の夜だからか、道行く人が多い。



外はコートとマフラーでも少し寒いくらいだけど全然苦痛ではなかった。






「ごめんね、お待たせしました」






小走りでこちらに小さく手を振る、俺の待ち人。






『いえ、俺も今着いたので』






なんて、冷えきった指先に嘘をつく。


長い髪は綺麗にアップにされていてふわふわ。
コートの下は見えないけど何を着てもきっと綺麗なんだろう。









「最初松村くんに見えなくてびっくりしちゃった！すごくかっこいいね」







俺の気持ちを知ってか知らずか。


まっすぐに褒めてくれる桃瀬さんは･･･ずるい。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す