安室透の前で盛大にこけるところから始まる話

２ ページ3

あらやだほんと。
かけっこの構えなんてしたらバレるに決まってるじゃない。
やっぱり寝不足はダメね。
考えたことがすぐに体に出ちゃう。

「…そんなに手当てされるのが嫌ですか？」
『いえ、手当てされるのが嫌というより、会社に遅れるのが嫌なだけです』
「それなら僕が送るので、まずは消毒しませんか？」
『そんなそんな。そこまでご迷惑をおかけすることはできません』

さらに顔をしかめる安室さん。
そんなに怖い顔してたら子供達が泣いちゃうわよ。

「どうしても……ダメ、ですか？」
『鬼の顔の次は捨てられた子犬の顔ですか』
「……喧嘩売ってます？」
『あ、つい本音が…』
「………」

どんどん眉間にシワが寄っていく安室さん。
イケメン顔が台無しよ。
そんな顔にさせたのは正真正銘私ですが。

「はぁ。仕方ないですね」
『あ、やっと諦めてくれました？やった嬉しい。ありがとうございます』
「そうですね。説得するのは諦めました」
『待って。何そのなにかを含んでるような言い方。しかも何故めっちゃ笑顔なの』
「ははは。嫌だな、僕はいつも笑顔ですよ」
『それを自分で言いますか』

一歩ずつジリジリと近づいてくる安室さん。
あなたがイケメンじゃなければ、すぐにセクハラって叫んでるわ。
自分の顔に感謝するのね。
って待って。ほんとに待って。近いから。

近づいてくる安室さんから離れようと下がっていると、背中が壁にぶつかった。
え、え、嘘でしょ。これこそ詰んだ。

トン、と顔のとなりに安室さんの手がついた。
マジか。
人生初の壁ドンがイケメンとか最高じゃん。
裏がありそうなほどに顔が超笑顔の彼でなければの話だけど。

「…全く照れないんですね」
『イケメンにされたら誰でも照れると思ってるのは大間違いですよ。どいてください。会社に遅れます』
「そう言われてどくと思います？」
『全く思ってないですね』
「よくわかっていらっしゃる」

そうね。この数分でよくわかった。
友達からは優しくて笑顔が素敵な完璧イケメンって聞いてたのに、違うことがよくわかった。

『そろそろセクハラって叫びますよ？』
「それは困りますね。…では、こちらも最終手段にでることにします」
『最終手段？…っ、なっ！？』

なにをするのかと思えば、あろうことか世に言うお姫様抱っこをしてきた安室さん。
この人なにを考えてるの？
バカなの？
恥ずかしいという感情はどこかに捨ててきたわけ？

３→←１【ポアロのイケメン店員さん】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す