心が求めて 【Kei.I】

せめぎ合い ページ12

Kei Side

「なんか、難しい顔してるよ？」

Aの心配そうな声で彼女に意識を急いで戻す。


「んー今日はAと観たかった映画でも観ようかなってね。」


考えていた彼女には言えない事とは別の事を慌てて口にして取り繕う。


「えーどんな映画？」


嬉しそうな表情のAの頭を柔らかく撫でる。


「慧くん、大好きだよ。」




猫みたいに気持ち良さそうに目を細めながら紡いでくれたのは、ネガティブを吹き飛ばしちゃう魔法の言葉。



脈絡なく唐突なのはきっと俺の不安を察してのこと。



Aはいつも俺が欲しい言葉を欲しいタイミングで伝えてくれる。



それは、友達の時から変わらないこと。




彼女は俺と出会えてたくさんのハジメテを俺から教えてもらったて言ってくれる。



だけど、俺が教えているのはキスの仕方とかお付き合いのお作法みたいなもの。




それなのに、Aから与えられるのはもっとずっと大切なもの。





俺だけに向けてくれる笑顔にきゅんてする気持ち。



唇の温もりを感じただけで心まで一緒に温かくなれちゃうこと。



おしゃべりで夜ふかしした後に迎える朝の喜び。



友達の時には手に入らなかった形に出来ない大切なもの。



それを感じる度にまた好きが募る。



だけど


こんなに満たされているのにまだ欲張りになってしまう俺。



Aに新しいハジメテを与えたいって心が求め始めている。






でもまだ



まだAとこのまま



陽だまりみたいな関係でいたいって思っている自分もいる。



だから



最近は2つの相反する心のせめぎ合いに苦しくなるばかり。

我慢比べ→←普通に惹かれたら

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す