ちっちゃい二口くん、拾いました。【HQ】

32. ページ32

◎二口side




『はい、Aです。』

「…よー。」

『いきなり電話はびっくりだよ〜』




そういうわりに聞こえてきた声は嬉しそうに弾んでいて頬が緩む。
俺も意味もなく足を組みかえ、木陰を揺らす風に髪を抑えた。




「雷、怖かったらいつでも呼べよ。」



これは半分冗談、半分本気だ。
Aに会えるならなんでもいい。

しかし向こうからはくすくすと笑い声が返ってきた。



『…私ね、堅治くんのおかげで雷平気になったみたいだよ。だから大丈夫。』


「はァ？」



え、そんな簡単に俺の精一杯の口実殺す？
マジで1ミリも好意伝わってねぇんだな。なめてたわ。


ため息をついていたら急に電話の向こうがうるさくなった。





『あっ、ちょ！橋本ちゃん…！』


耳を澄ますと、例の彼氏さんですか〜？という女の声が聞こえてきた。


『もう！だから違いますって…！』


…なるほどね。



「アレ、ちげーの？」

『違うでしょ！』



内心嬉しくてからかったら、
堅治くんのせいで勘違いされてるんだからね！
と怒った声が返ってきた。

可愛い。



「フーン。」

俺としては勘違いされたままでいいんだけどな。




『もう、年上をからかわない！』

「からかってねーし。」

『っ…わ、私そろそろ昼休み終わるから、じゃあねっ』




俺が返事をするまもなく、通話は切れた。

しかし戻ったトーク画面には バイバイ というスタンプがきていて、徐々に顔がニヤつくのが分かった。




「…マジで。からかってねぇっつーの。」






ケータイをポケットにしまい、立ち上がる。


今日の夜は雨が少し降るだけらしい。
つまんねぇ。



「てかなにチェックしてんだし俺。」



ほんと、これからしばらくは毎朝チェックしてんだろうなと想像がついて、その健気さに自分でも呆れた。








.
おわり

◎あとがき→←31.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す