縁の庭【北信介】 (ページ5)

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「しんちゃん」は、
北信介と書いて、きたしんすけ

と読むらしいです

しんすけ……とてもいい名前

わたしを優しく撫でてくれるのは、
「信ちゃん」

信ちゃんのあたたかい手は、
傷付いた体を癒してくれる、
まるで魔法の手のようでした

ずっと、あの手を独り占めできると
思っていたのです

ここに来て何日か経った日の夜

二人は、わたしが眠りにつくのを見届けた後、
こんな会話をしていました

「ばあちゃん、こいつ、明日
森に帰してくるわ」

「…せやなぁ、
昔から狐は森の神さんの使い言いよるし、
帰してきた方がこの子にとってもええかも
しれんねえ…」

「しゃあないな。
…ちょっと寂しなるけど、
こいつにとってもその方がええやろ」

おばあちゃんは寂しそうな顔をして、

信ちゃんは何度も、わたしの頭を撫でながら。

＊

次の日、久しぶりにお外に出ました

今日はお散歩日和だったので、
お散歩してくれるのかもしれません

どこ行くのかな、
公園かなぁ

信ちゃん、背高いなぁ
髪がさらさらしてて、背筋が伸びてて
すごいなあ

信ちゃんは森の入り口まで一緒に
私を連れていくと、言いました

「お前は森で生まれ育った狐の子や。
元いた場所で生きるのが、一番ええやろ」

わたしは信ちゃんの言っている意味が、
すぐ分かりました

わたしのためを想って、
ここに帰しにきたのだと

「この何日か、お前と居れて良かったわ。
ばあちゃんもお前のこと可愛がってたで、
ありがとうな」

まっていかないで
信ちゃんと、おばあちゃん
ふたりと離れたくないよ

そう思ったわたしは、

「ほな、元気でな。
ここで、ちゃんと生きるんやで」

最後に頭を撫でて
そう言って踵を返した貴方の背中に、

『きゅう…っ！』

わたしは思い切り飛びつきました