縁の庭【北信介】 (ページ13)

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『…きゅう…、きゅう……』

森で長い時間迷ってしまいましたが、

なんとか家の近くまで歩いてこれました

体は泥だらけで汚くなりました

でも、信ちゃんへの贈り物は
少しも汚さないように頑張ったので、
綺麗なままです

ゆっくり、走り疲れた足を引きずって
歩いていると

向こう側から誰かの声が聞こえました

「……ぃ、……！」

『っきゅん！！』

信ちゃんの声です

わたしは残った僅かな力を振り絞って

走り出しました

信ちゃんの驚きながらも安心したような顔が、
もうすぐそこ

「……っお前、心配したんやで、」

『…っきゅう！』

わたしは走ってきた勢いで、信ちゃんの
胸に飛び込みました

大事な部活のジャージが
泥まみれになると分かっていながら、

信ちゃんは受け止めてくれました

求めていた、信ちゃんのこの、
お日さまのようなぬくい温もり

「…泥だらけで、傷もつくって。出会った時の
こと思い出すな。
どこか危ないところ行ったんか？

…ん、なんや、綺麗なもん咥えとるな」

信ちゃんは、わたしが森から持ってきたものを
手に取り見つめました

「…これ、は」

その時、後ろからまた別の声が聞こえました

「…信ちゃんっ、狐さん見つかったん…？」

「…っばあちゃん、ほれ、見つかったで。
すまん、今家に帰ろうとしとった」

「まあ、狐さん無事やったん、良かったあ。

…あら、信ちゃん、その綺麗な花はどうしたん？」

「あぁ、こいつが口に咥えとったもんや」

「…それ、瑠璃唐綿やねぇ」

そう、私が信ちゃんのために
森から採ってきたのは

ブルースター、別名瑠璃唐綿(ルリトウワタ)という
明るいお空のような色の、星の形をした
小さなお花たち

花言葉は

「…花言葉は、幸福な愛、信じ合う心。
狐さん、信ちゃんのことほんまに
大好きなんやねえ」

おばあちゃんは、目尻をふにゃんと垂らして
小さく笑いました

信ちゃんも隣でそっくりな顔で笑っています

「…綺麗な花やなぁ、ありがとうな。
ほんまに嬉しいで、ありがとう」

信ちゃんは、いつもみたいに
頭を優しく、優しく撫でててくれました