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「あ、やば、もうこんな時間」

少々見惚れすぎてしまったか。なんちゃって、さすがにそこまで自分の容姿が好きなわけではない。


私はパンプスを履いてカバンとゴミ袋を掴む。しっかり鍵をしたことを確認し、霊幻さんの部屋の前を通って日当たりの悪い階段を降りていく。アパートのゴミ捨て場に近付いたところで、とある人影に気が付いた。


「ぁ……」

喉から声とも言えぬ息が漏れた。
その人影が振り返り、心臓が跳ね上がった。


「ん? 昨日の嬢ちゃんじゃねーか。おはようさん」


クマなのか犬なのか猫なのかネズミなのか、よく分からないプリントの衣服を着たその人は昨日のようにニッと笑った。


「あ、お、おはようございます……」

「嬢ちゃんもゴミ出しか?」


声が出なくて、私はとっさにその人と目を合わせて頷く。


「格好見るにこれから仕事か、頑張れよ〜」


その人はまた心臓に悪い笑顔を見せて去っていった。


あぁ、かっこいい。どうしよう好きだ。本当に好きだ。
私はしばらくその場にしゃがみこんで、どうしようもない程の恋情に襲われていた。泣いてしまいそうだ。悲しくなんてないのに。恋ってこんなにも大きなものだったっけなぁ、自分の恋愛遍歴を思い返す。しかし、余計なものまで思い出されて私の顔はより一層の赤くなった。

そう、今朝に見た夢だ。あんな夢を見たあとに顔を合わせるなんて最悪だ。いや会えたのは最高なのだが、タイミングが最悪すぎる。


あんな、『あの人に抱かれる夢』なんて。

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作者名:被苦人 | 作成日時:2022年9月28日 1時

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