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「そろそろええ時間やな、行くか」
「行くかぁ」
APEXを閉じ、しっかりとマスクもして玄関に向かう。Aに先に靴を履くように促すが、その足元を見て俺はぎょっとした。
「え、Aそれで行くん?」
俺はAが履いている部屋着のショートパンツを指さす。
「ん? あかんかった?」
「あかん。絶対あかん」
「なんでぇ」
もちろん道行く人にAの生足を見られるのが嫌だからだ。でもそんなことを言ってしまえばAに引かれかねない。
「……東京は変態多いんやで」
ぼそぼそと言うと、Aは可笑しそうに吹き出した。
「っふ、なにそれ。まぁ冷えるかもやし、ちょっと着替えてくる」
Aはパタパタと足音を立てて部屋へ戻って行く。
Aが言った『冷えるから』という言い訳を先に思いつかなかった自分の脳を殴りたくなった。
戻ってきたAの太ももがしっかり隠れていることを確認して、今度こそ靴を履いて玄関を出る。
「すごい、夜中やのにめっちゃ明るい」
「俺らの地元まじで暗いもんなぁ」
周りにはあまり人はいなくて、身内の話題に花を咲かせたこの空間がまるで2人っきりのように錯覚してしまう。少しでも寄れば肩が触れてしまいそうな距離がもどかしかった。
数分歩いて、一際明るいその建物の入口を潜る。出迎えられているかのような軽快な音楽とは反対に、レジに立つ店員は気だるそうだった。
Aは真っ先にアイスのコーナーに向かう。
「なぁなぁだるまくん、これ半分こしたい」
そう言って嬉しそうに手を持っているのはパ〇コ。
「A昔からそれ好きよな」
「うん、めっちゃ好き」
幼い頃によくAと半分こしたのを思い出す。懐かしさと共に、俺はAの小さい頃も知っているんだぞと、誰に向けてか分からない優越感に浸る。
結局、あれも買おうこれも買おうとかなり長居してしまい、コンビニを出るころには22時半を過ぎていた。
「んふふ、お酒買っちゃったねぇ」
「酒とか久々やわ」
俺の持つ袋からお酒の缶や瓶がぶつかる音が聞こえてくる。
「アイスも楽しみ」
Aは持っている袋の中を覗いて、楽しそうに呟く。
男女ひとつ屋根の下で酒なんか飲んでどうなってしまうんだろうという不安もあったが、これで長年の片思いも何か変わるかもしれないと、俺は少しの期待を抱いていた。
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被苦人(プロフ) - 9日さん» 最後まで読んでいただけて本当に嬉しいですありがとうございます!!後日談の方でもよろしくお願いします!!!😚 (2022年8月3日 18時) (レス) id: 2d39e952a2 (このIDを非表示/違反報告)
9日 - ハッピーに終わって良かったです😳被苦人さんの小説本当に面白いです!言葉の使い方とか、その人の口調とかがしっかりしているので読みやすいです!後日談楽しみにしています🤧ここまで続けてくれありがとうございましたー❣️ (2022年8月3日 1時) (レス) @page41 id: 1ef4db81f3 (このIDを非表示/違反報告)
被苦人(プロフ) - 紫蜘蛛 遊歌さん» 口調などのリアルさだけはこだわってたので、そう言っていただけて本当に嬉しいです!!これからもこの作品をよろしくお願いします!!! (2022年7月26日 12時) (レス) id: 2d39e952a2 (このIDを非表示/違反報告)
紫蜘蛛 遊歌(プロフ) - 良!!!!すぎる!!!!だるまいずごっどがだるまいずごっどしててしてて好きです!!!更新楽しみにしてます!!! (2022年7月24日 20時) (レス) @page37 id: c815507bb4 (このIDを非表示/違反報告)
被苦人(プロフ) - 瑞稀さん» 夢主ちゃんは最初もっと天然な感じで考えていたのですが、だんだん小悪魔属性になってきてしまいました…笑 これからもこの作品もよろしくお願いします! (2022年7月15日 14時) (レス) id: 2d39e952a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:被苦人 | 作成日時:2022年6月18日 1時