水と氷の花が咲くまで。弐【D.Sakuma】 (ページ5)

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肆拾捌ページ5

side.佐久間

男につれられて知らない道を歩き、辿り着いた廃工場のような場所。
中には昔見た物と同じ、沢山の薬品や実験器具らしきものがあった。

男「いやぁ、機器も薬品も
もとに戻すのに苦労したよ。君が全部凍らせてしまったからね。
今度は暴れないでくれよ。
次は＿＿君のいっとう大事にしてるものを壊してしまうよ？」

ぐっと下唇を噛む。
俺の大事なもの。大我、阿部ちゃん、スノストみんな、
そして何より＿＿＿＿A。
全部全部おれの大切なもの。壊されたくない。
みんなには、笑っていてほしい。

佐「わかってる…おれはどこにいればいいの。」

自分でも驚くほど感情のない声が出る。
それでも男は笑みを浮かべたままで、
久しくなかった“気落ち悪い”という感情が身を起こす。

男「こっちだ。」

男に続いて部屋に入ると、
そこには壁につながる鎖と手足の枷。
いっそ懐かしさすら覚えて笑えてくる。

佐「ふふふ…なつかしいね。」

おれが笑っているのを見て初めて男の表情から笑みが消える。
笑ってるのが変みたい。こわしたのはあなたなのに。

佐「よっと…あぁ、これ魔法式にしたんだね。
これなら余っ程のことなきゃ壊れないもんねぇ。」

魔法がかかった枷を自分から手足に巻きつける。
あのときは普通の鉄枷で、魔法を使って壊せたけど。
どうせ救われやしないのだから
とっとと諦めてしまったほうが楽なのだ。

男「まったく…完全に壊れてしまったんだな。
まぁいい、抵抗しないほうがありがたいからね。」

「所長、被検体Sの捕縛は成功しましたか。」

その声に目を見開く。知っている声だった。
隣の家に行く度に聞く、唯一の女性の声。

佐「めぐ、ちゃ…？」

そこにいたのは紛れもなく、
SixTONES髙地優吾の妹である髙地愛玖ちゃんだった。
だけど別人と見紛うほどの冷たい瞳が俺を捉えた。

愛「久しぶり、佐久間さん。
どう？信用していた私に居場所を売られた気持ち。」

男「彼女には諜報員として君の情報や居場所を教えてもらってたんだ。
お陰でスムーズに事が運んだよ。
君が僕を凍らせたあのときもこの子が助けてくれてね。」

愛「あのときは偶然ですけどね。」

笑み一つ浮かべず淡々と言う愛玖ちゃん。
言葉の一つ一つが俺の心臓を貫くように通り過ぎていく。
今までの愛玖ちゃんの笑顔は全部ウソ？
俺にも、他のみんなにも嘘をついてた？
あの笑顔が嘘だなんて、俺には信じられないよ。