水と氷の花が咲くまで。弐【D.Sakuma】 (ページ16)

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伍拾漆ページ16

side.佐久間

みんなが、目の前にいる。
翔太が、帰ろうって言ってくれてる。現実だ。幻覚じゃない。
行きたい、帰りたい。でも、帰ったら？おれがいなくなったら？
きっとあいつは、みんなをきずつける。だめ、それは、だめ、だめ。

佐「っふ、はぁッ、っく、ふぅっ…」

いけないいけない、呼吸を乱せば変に薬のまわりが早くなる。

阿「さくま、さくまっ」

だいすきな低めの声が鼓膜を揺さぶる。この人達を、護りたいから。
いけないいけない、行けない、行けない行けない。
おれだって、ほんとうは。ほんとうは。

佐「っかえ、り、たいっ…！」

ぽろぽろ、しょっぱい雫が瞳から零れた。
おれを抱きしめていた阿部ちゃんがはっと顔をあげておれを見る。
つらいときは傍に居る、そう言ってくれたときと同じ、優しい顔。

阿「うん、一緒に帰ろう。俺と、俺達と帰ろう。
凍水先生が待ってる。みんな、待ってる。」

そうだ、A。Aに会いたい。
可愛い可愛い幼馴染。おれの、初恋の人の笑顔が見たい。
瞬間、おれの前方、阿部ちゃんたちの後方から
鋭く禍々しい殺気が放たれる。思わず首を竦めた。

男「やぁ、すごいね。あの数をこんな短時間で倒すとは。
中まで光が届いていてね、
中に居たのも粗方片付けられてしまったよ。」

そう言いながらも余裕の笑みを崩さない男。
倒す、て、なに…？
みんな、なに、してた…？

男「大介。」

渡「てめぇみたいなクソ野郎が佐久間の名前呼んでんじゃねぇよ。」

翔太が放つ殺気は、男のものよりもっと冷徹で、膨大で。
涼太以外でも本気になってくれるんだ。
なんて関係ないこと考えて嬉しくなってる。

髙「佐久間くん、怪我治すね。“零桜”。」

翔太とあいつが睨み合っている間にふわり、桜の花弁がおれの額に触れる。
今まで捨てていた痛みという感覚が一瞬戻って顔を顰めたけど、
すぐに暖かさがおれを覆って次の瞬間には傷跡すら見当たらなくなる。

佐「あ、りが、と、こち、」

喉が渇いて、更に薬で力が入らなくて声がうまく出せない。
それでも髙地は嬉しそうに「どういたしまして」と笑ってくれた。

髙「薬も抜ける分は抜いたから、すぐ楽になるよ。
もうちょっと頑張ろうね。」

阿部ちゃんと髙地は、似ている。
いつだって優しい人たち。
自分のこと後回しにはしてほしくないけど。

渡「照、もういい？」

岩「今更駄目とかあるかよ。やるぞ。」

翔太と照が一歩踏み出す。
睨み合っていた互いの均衡が崩れたのが、わかった。