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…ーーーーー夏の、夢。
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遠くで、兵が戦う声がしている。
夜だというのに、兵たちが灯す炎で明るい。
侍女たちは青い顔をしている。
敵軍が、もうすぐそこまで来ているんだろうか。
カチャンカチャンと、歩くたびに甲冑が音を鳴らしながら、ひとりの男がそばに来た。
「市さま」
「…ーーー勝家。
今の私はあなたの妻です。
あに様…、信長も、もういない。
もう、昔のように呼ばなくて良いのですよ」
「いえ、信長様は仕えるべき主君。
あなたは信長様の大切な妹君…
私にとって、昔と変わらず大切な姫君です。
秀吉の使者がまいりました。
あなたの命は助けるとーーー
私のことは気にせず、秀吉の元へ」
「嫌です!
これ以上、生きながらえたくはありません!」
「…ですが…」
「覚悟は出来ております」
「…っ、一度、決められたら頑ななところは、
信長様にそっくりですなぁ、」
「……兄を、支えてくれて、ありがとう」
「勿体ないお言葉にございます」
「………ねえ、勝家。なぜ、人は戦うのでしょうか…」
「…それが、運命(さだめ)だからでございましょう」
「さだめ、」
「…信長様が目指された、天下統一は、戦国の世を終わらせるため。
遠い未来、血を受け継いだ子孫が、平和に暮らせるようにと願ってのこと。
そのために、戦うことを選ばれたのです」
「……覇者と呼ばれながら、子孫の平和を願うとは…。
あに様らしい考えですね」
「…ええ、信長様にお仕えして、幸せでございました」
………
さらぬだに 打ちぬる程も
夏の夜の 夢路をさそふ
郭公(ほととぎす)かな
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作者名:まる | 作成日時:2022年9月23日 16時