花の思い出 ページ26
*
──「止め!!」──
審判の掛け声の後に湧き上がる声援。
蹴りの構えを解くと目の前でしりもちをついている相手に手を差し出した。
相手は最初は悔しそうに、でも次には 強いね。と呟き笑顔で私の手を取ってくれた。
その光景にまた歓声が沸く。
「Aー!」
「すごいすごい!」
同僚が歓喜のあまり私に抱きついてくる。
蝉の鳴き声と日の光が強くなって────
ジリリリリリ!
『っ……はぁ(夢、か)』
どうやら椅子に座ったまま寝てしまったらしい。
設定アラームを止め、深い息を吐く。
2月ということもあり肌を刺す寒さが意識を覚醒させる。
ずいぶんと昔のように感じたあれは確か中学3年生の時だったか。
空手の大会で綺麗に決まった上段蹴りがとても印象的なあの日が、私の最後の試合。
その日の帰りに私は事故にあい、左足を……。
私は目を落とし確かめるように左足を撫でた。
また歩ける喜びは恐怖ですぐに薄れたが、それでも
『足があるって、良いな』
それが仮想世界だけのものだとしても、思わずにはいられない。
「……A、さん?」
声につられて視線を動かすとベッドの上で眠たそうに目を擦る少女の姿が目に入る。
私は微かに笑うと おはよう。と朝の挨拶を口にした。
「おはよ…ございます」
まだ眠気が覚めていないのかボーとしている少女──シリカ──。
それが少しおかしくてまた笑った。
『起きたてで悪いけど“それ”起こしといてくれる?』
そう言って彼女の足元を指さし立ち上がる。
「“それ”?……っ!」
床に座り込み、ベッドに上体をもたれさせて眠りこけている黒い人物。キリト。
目にした瞬間 上げようとした悲鳴を口を抑えて堪えている姿は年相応の反応だ。
『朝食持ってくるからこの部屋で待ってて』
「あ、はい…」
戸惑いながらも了承してくれる彼女にお礼を言い部屋を出た。
1番に左右を確認し私は警戒しながら下へ続く階段へと足を進めた。
*
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シオン(プロフ) - 続き待ってます (2021年10月20日 18時) (レス) id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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