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その足のまま、私達は第49層の宿屋へと戻っていた。
あれからキリトは一言も言葉を発していない。

「今日はありがとう」
部屋は、お互いに隣通しで取っている。
部屋の前でやっと声を発したかと思うとあっさりと手が離され彼は部屋へと入っていった
温もりが残る手を横目に閉められた扉にも目を向ける。

『早速 私は払い箱かい』
こうもあっさりしていると腑抜けにも見えてくる。
放っておいて良いものか考える。
と言っても今は何よりHPを回復したい。
私は隣にとってある自分の部屋に入り置いといたパンとミネラルウォーターを取り出した。
携帯用のコンロも出しケトルに入れたミネラルウォーターを上に置いた。
ダブルクリックの要領で素早く2回叩くとポンと可愛らしい音を立ててものの数秒でお湯の完成である。
コーヒーの粉を入れたマグカップにお湯を注ぐと芳しい香りが鼻をくすぐった。

SAOの料理は時短でいいが簡略的すぎて面白味に欠ける。
現実世界で一人暮らしだった自分にとって 料理は己とじっくり向き直る時間を提供してくれるから好きだったけど、今はほんの数分しかないからそれが出来ない。

私はマグカップを持ち、壁に寄りかかりながら胡座(あぐら)をかいた。

『今のところは大丈夫そうだな』
索敵スキルのひとつである《聞き耳》スキルを使い隣の音を聞いているのだ。

んー危ないことしてる気分になるなぁ。

なんて思いが頭をよぎるがすぐにかき消す。
こうでもして見張っておかないと何が起こってからじゃ遅いんだ。

──……………カタッ──

小さな物音がして私の中に緊張が走る。

──……カチッ、ジー…──

一体何をしているんだ?
私はマグカップを床に置き 聞く事に集中した。


──《メリークリスマス、キリト。》──

居ないはずの声に私は息を呑んだ。
この声は、いや彼女はあの日に亡くなったってキリトが言っていたはず。
彼が酷く心を痛めた原因の少女。

『……サチ』
青みがかった黒髪に優しさの滲む黒い瞳がぼんやりと頭に浮かぶ。
あれから半年が経ったことで朧気にしか彼女を思い出せない。
薄情な自分に吐き気が出るよ。
けれど、きっとキリトには今も鮮明に焼き付いているのだろう。
彼女の遺言とも取れる音声が進むにつれて啜り声が混ざっていくのが聞き取れる。






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シオン(プロフ) - 続き待ってます (2021年10月20日 18時) (レス) id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スピカ(しゃっぽ) x他1人 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2020年10月6日 11時

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