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公式のレースこそ出場してはいないが、サーキットでタイムレース擬きの練習は頻回に行っている。由唯に、引退勧告を突き付けられるほど衰えたつもりはない。
だというのに――――――
圭吾の背筋に、冷たい汗が伝う。
まだ子供だと思っていた彼の瞳が、こんなにも恐ろしく感じるなんて。
「ははっ。やれるもんなら、やってみろ」
右手が、微かに震えている事を悟られぬよう、圭吾はいつもの口調で返した。
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午前中から始まったレースは、予選の続き。
由唯と圭吾はそれぞれの組をトップで通過し、予定通り決勝でかち合う事となる。
9時にホテルのロビーで待ち合わせた刹那達は、今頃母親と合流してブランチを楽しんでいるだろうか―――
時計に視線を落とす由唯は、綾子にもう一つ“お願い”をしていた。
“午後一の決勝戦―――刹那をサーキットに連れてきて欲しい”
騒音と人混みにまみれたあつくるしいサーキットは“嫌い”だと言っていた彩子だが、電話口では由唯のお願いを渋々と了承してくれた。
“愛しい娘のためならば―――”と。
決勝戦―――
腕に着けた時計型デバイスが、小さく振動した。
“ゴールラインにいますよ―――You can make it !”
何とも、彼女らしいメッセージだ。
(まぁ。“Good luck”(神頼み)よりは良いか―――)
由唯はクスリと口元を綻ばせた。
「にやけているなんて、余裕だな?」
隣でマシンの最終確認を行っていた圭吾が、にまにまと笑みを浮かべた。彼の顔に、緊張の色は全く見えない。
『そりゃ、勝利の女神が二人も微笑んでいるからな』
訝しげに目を細めた圭吾だが、並みならぬ視力でゴール前のスタンド最前列に並ぶ黒髪の集団を見つけ、思わず顔をしかめた。
「あーな。勝利の女神が“二人”もね―――………。」
圭吾はそれ以上を口にせず、シールドを降ろしてアクセルを握ると、スターティンググリッドにバイクを走らせた。
セッティングを終えたマシンが、次々とスターティンググリッドに並ぶ――
当然ポールポジション(予選一番)を得たのは圭吾だが、由唯もそれに並んでいた。
緊張はある―――だけど、想定していたよりは冷静でいられる気がする。
ドコドコと小気味のいいエンジン音が腹に響くのを感じ、由唯はそっと右手関節を握った。
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鈴桜(プロフ) - バイクレース勝った〜〜!!おめでとうです。続き頑張って下さい。待ってます。 (2021年10月5日 22時) (レス) @page42 id: 02b3e189b5 (このIDを非表示/違反報告)
kohaku(プロフ) - シオンさん» コメント有難うございます、温かく見守って頂けると嬉しいです。 (2021年10月4日 22時) (レス) id: cbd072c832 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 可愛いです。セツにチュウルやっての可愛さがあります。続き頑張って下さい (2021年10月4日 21時) (レス) @page33 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年9月16日 0時