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『──えっと、後 買うものは……』

あれから数日が経つも婚約者さんからの接触はない。
ウチはいつものように買い物をしていた。



ふと、頭上が陰り同時に口を抑えられる。
突然のことに身体を震わせると背後から低い声が
「すまねぇな。アンタに罪はないが、これもビジネスだ」
その言葉を最後に、ウチの意識は途絶えた。







『っ!』
目を覚ますとそこは薄暗いどこかの部屋。
6畳ほどの広さで四方に物が散乱している。
粉っぽい空気にここが使われていない部屋だと、天井付近に小さくあるだけの天窓に場所が地下だと推測をつけた。

「……目が覚めたか」
唯一のドアから3、4人ほどの男性が入ってくる。
ゴツめの服装と風貌から近所の人、という訳ではないらしい。

1人の男性がこちらに歩いてきてウチの前でしゃがみこむ。

「一般人の娘にこんなことまでしていいもんかよ」
彼の瞳に映るウチは柱に寄りかかり後ろ手に拘束されているのがわかる。
そんなウチを、男性は哀れんだ目で見下ろしていた。

“「あら、その子に同情なんてしてもいいのかしら?」”

この場に相応しくない鈴を転がしたような声に目の前の男性は大きく肩を揺らした。

“「こんにちは、黒髪のお嬢さん。
また会いましたわね?」”
目の前の人が横に体をずらすと、後ろの部下の1人が手に持っている携帯電話の画面に映し出された“彼女”の微笑みが目に入った。
その完璧すぎる笑みにそれが仮面である事はウチでも分かった。
小さく息をのむ。

“「貴女はあの時と今もとても小さく愛らしい方ですわ。
由唯さんの背中で震える姿に私、すごく虫唾が走りました」”
後半のトーンの下がりようは異常で、隠していた嫌悪が惜しみなく露顕しだす。

“「私、貴女のことを少し調べましたの。
親に捨てられ孤児院で育ちぬくぬくと生きている一般の女の子。
由唯さんと年が同じということ以外は特に吐出した所もありませんでした。
その点 私の家系は由緒ある家柄。由唯さんのお父様との関係も友好で彼の後ろ盾になりやすい」”
ほら、由唯さんと貴女とでは産まれに雲泥の差がありますのよ?
貴女の付け入る隙などありませんわ。

嘲笑うかのような物言いにウチは口答えなどしない。
だってそれは事実だから、───それでも

「潔く由唯さんから身を引きなさい。そうすればこれ以上痛い思いはしませんわ」

それでもウチは──

『────ッ嫌だ!』

由唯くんの隣にいたい───

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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年8月9日 9時

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