したたかであれ【刹那side】 ページ9
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『──ってことがあってね』
「へぇ、それは面白……大変なことになっていますね」
叔父様に車で送ってもらった日の夜に、ウチはあったことを母とせんせいに話した。
向かいのソファーで湯呑みを啜るせんせいに対し、キッチン側から飲み物を取ってきた母の零した問題発言をうちは聞き逃さない。
『面白くないよ。……由唯くん、すごく困ってた』
あの焦り様は尋常じゃない。
それでもウチのことを案じてくれる優しさに心が苦しくなる。
胸を抑えたウチの頭に母の手が乗る。
「すみません。言いすぎました──っと、それは?」
ウチの手元の紙に目がいったのか問いかけてくる。
『これは叔父様……由唯くんの叔父さんから貰ったものだよ』
連絡先だって。
見せると 母は「なるほど」と口角を上げた。
「………刹那ちゃんはどうしたい?」
今まで聞き側に回っていたせんせいの問いかけにウチは意表を突かれるも、直ぐに自分の言葉を返した。
『助けたい。由唯くんを』
彼が困っているのを見るのはツラい。
彼にはいつも心から笑っていてほしいから。
せんせいの目を逸らすことなく真っ直ぐ見つめる。
「それによって、貴女が怖い思いをするかもしれないと知っても?」
彼女の瞳に反響して映るウチは小さく弱々しいかもしれない、けど。
ウチは今ある力強さで頷き、『守られるだけは、嫌だ』と言葉を紡ぐ。
『彼の笑顔を、今度はウチが守りたい』
水を張ったような緊張感が辺りを漂う。
それを打ち破ったのは
「よく言いました!さすが私の娘です!」
酷く嬉しそうな母だった。
母はウチに抱きつき頬を擦り寄せてくる。
今はそれどころじゃないと肩を押すもビクともしない。
力強いなこの人。
「彩子ちゃん、そろそろ離しなさい」
「はーい」
相変わらず せんせいの言葉には素直に従う母に、ウチは開放された喜びで息を吐いた。
「貴女の意思を尊重して、私達も手を貸しましょう」
やるからには徹底的に。良いですね?
せんせいの号令に、ウチと母は口角を上げた「『はい!』」と声を張った。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時