ゆいの憂い 【由唯side】 ページ7
*
―――覚えているだろうか。
先日のバイクイベントの一件。突如バイト先に現れた須藤に取り乱し、挙句の果てに好きな子の前で醜態を晒した上に勢い余って伝えてしまった本音。
“―――せっちゃん、俺は―――せっちゃんが 好き。
君だけは離したくない…今を誰にも、奪われたくない“
いや。早いうちに伝えたいとは思っていた為、後悔はしていない。最近刹那の周りにやたらと男が目立つため、今となっては、ハッキリ言葉にして告げた自分を褒めてやりたい―――のだが。
軽快に鳴るまな板の音を、カウンター越しのダイニングテーブルに座り、膝に乗せたセツをあやしながら聞いている。キッチンで料理作ってくれる刹那は、あれから何事もなかったかのような振る舞いだ。
(―――ってか、意識しているの…俺だけ?)
何か、伝え方を間違えただろうか―――。
これでも結構、恥ずかしい台詞を口走ったと思っているのだが。
じっと刹那を見つめていると、緑の瞳とかち合う。
彼女は「もうすぐハンバーグできるから、待っててね」と微笑み返した。
うーん。どうするべきか……
『―――……せっちゃん』
「ん?」
キッチンから、ハンバーグを焼く美味しそうな香りが充満する。ターナーを片手に、手際よくひっくり返されるハンバーグから、じゅわっと油の音が立った。
『 好き 。』
「?!!」
(おっ―――)
びくりと、肩が跳ねたのを、見逃さない―――。だが
「あ……ありがと―――ぅ」
段々と尻窄みになる声に、動揺している事は伝わる。
(――― それだけ?)
食後、お腹をこ慣れさせるのにとソファーに並び、由唯はタブレットでレースコースの予習を…刹那は母親が持たせてくれる山の様なおもちゃでセツと遊ぶ。
(―――うーん。なんか、悔しい)
『セツばかり、ズルい』
セツを膝に抱く刹那の肩に擦り寄る様に、身を寄せる由唯。
「―――ッ 由唯くんッ!」
一瞬、びくりと肩を緊張させていたが、その後は文句もない。
こうして近くに寄る事も許してくれるし、払い除けられない所を見ると、嫌われてはいないはずなのに。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時