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少しずつ…少しずつ【刹那side】 ページ50




『──どうかな?』

ゴクリ、生唾を呑む。
ウチが見守る先には食卓につく由唯くんの姿。
彼の目の前には、小さめに切られたアーモンドケーキ。
膝の上から興味深めに見上げているセツ。
彼女の尻尾が秒針が時を刻むようにゆらゆらと揺れている。

フォークとナイフを使ってケーキを口へ運ぶ。
綺麗な所作に生まれの良さを感じた。

「ん、美味しい」
『ほんと?』
笑顔で応えてくれる由唯くんに、さっきまでの緊張が綻んでいく。

今日は文化祭に向けて、喫茶店で出すケーキの試作を行っていた。
調理係は1人2品、ウチはアーモンドケーキとチーズケーキを作るつもりだ。
道具が揃っている、弟妹達の目が向かない、という利点から 由唯くんの家で作らせてもらっている。
代わりに試食を彼にお願いしたのだ。

ウチも彼の対面側の椅子を引き、腰を下ろす。
試作ケーキと紅茶を用意し、『いただきます』と手を合わせた。

1口大に切ったそれをフォークに刺して口へ。
うん、美味しい。
……でも、何か足りないような……?

フォークをお皿に置いて天井をあおぐ。
そこに答えがあるわけじゃないけど見上げてしまうのは無意識だ。
思考にふけっていると目の前の由唯くんが声をかけてきた。

「納得いかない?」
『………うん』
何か足りない気がするんだけど、それが分からなくて……
由唯くんは、また1口食べると何かを考えるように視線を上に向けた。

「ちょっと甘さが強い、かな」
『甘さ……』
由唯くんは慌てて「美味しいのは本当だからね!」と弁明してくる。
その慌てっぷりが可愛くて……こういう一面も好きだなって思うのは変なことかな?

『甘すぎるってことは甘味を減らした方がいいかな?』
「……というか、ダイレクトに甘さが口の中に広がるのがきになるかなって」
甘さはちょうどいいんだけど……
頭をひねり言葉を濁らせる由唯くん。
どう説明すればいいのか困っているのかな。

大丈夫、ウチはそれで充分。

『なるほど!』
なら甘味を果物やソースで代用して、その分 砂糖を減らせば……

由唯くんのおかげでアイディアが溢れてくる。
ありがとうを言おうと彼の方を向くと 微笑んでいる彼と目が合った。

訊ねると「せっちゃんがすごく可愛いから見てた」と悪びれもなく言うものだから、ウチは急激な温度の上昇で顔が赤くなるのを堪えながら、小さく『ありがとう』と返した。


もう揶揄いじゃないって気づいたから。



でも……恥ずかしいものは恥ずかしいよ!







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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年8月9日 9時

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