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だけど、“その時”は意外に早くやって来る。
始業式を終えた午後、刹那が家を訪ねて来た―――
「由唯くん、ウチ、キミに伝えたいことがあって……」
インターホン越しの、少し慌てた彼女の声に、
いても立ってもいられなくなって……玄関ドアを開け、そのまま刹那の腕を引き入れた。
流れるように腕の中に納まる刹那は、ゆっくりと顔を上げる。
どこか焦っていて、不安そうで―――
『待っている―――って言ったばかりなのに』
「――ッ、ウチ!由唯くんのことが―――」
由唯は、慌てる刹那の唇を、人差し指で押さえた。
「?!」
『―――せっちゃん、慌てすぎ』
―――この玄関入る時、いつもだよね…
「〜〜〜ッッ」
言葉のタイミングを奪われた刹那は、少し不服そうに由唯の顔を見上げる。
普段なら、ここで遠慮してしまいそうな彼女だけど、今日は引き下がる様子はない。由唯の両腕を握り、じっと緑の瞳を合わせて逃がさない。
「お願い、聴いて!―――ウチは由唯くんが好き!」
――――友達じゃなくて…大好きです
言葉が終わらないうちに、由唯は刹那の体を抱きしめる。
嬉し過ぎて―――いとしすぎて、どうしていいか分からない。
絶対に離したくない…大切な人が、大好きだと伝えてくれた。
『ありがとう、せっちゃん―――俺も、せっちゃんが大好きだよ』
でも―――もう、好きだけじゃ、追い付かないんだ……
「―――え?」
不安げに、由唯を見上げる刹那の頭を、ポンポンと撫でる。
『刹那の 特別になりたい―――』
せんせいや、妹弟達や――お母さんの次で良いから……
刹那にとっての“特別”になりたい。
『刹那の 恋人になりたい』
―――由唯くんの 恋人(特別)……
(ああ、また困らせてしまったかな……)
返事は 今じゃなくてもいい。
せっちゃんの好きが、特別になる様に―――
もっと俺の事、好きにさせて見せるから。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時