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由唯くんの婚約者、須藤千世さんが現れた時、どうしようもない不安と焦りが胸の中に産まれ、ドロドロとした形状へと変わり ウチの中から消えてくれなかった。
みんなには由唯くんを助けたいと言ったけど、本音は違う。
由唯くんの隣で笑う千世さんの姿をお似合いだと思う気持ちを、否定したかった。
由唯くんを連れていかないで。
離れていかないで──
子どものような想いの裏で、これは違うと感じた。
友人にも弟妹にもせんせいや母にも感じたことのない感覚にウチの気持ちが追いつかない。
グルグル、ドロドロ、ズキズキ……
パンクしそうな頭の中で、一つだけ鮮明に見えたものがあった。
由唯くんが、好き──でも、これは友愛?
────違う。
『………友達は、嫌だ』
友人の目が先を促す。ウチは震える唇で言葉を紡ぐ。
『由唯くんと一緒に歩きたい』
「うん」
何気ないお話をしたい。
美味しいものもいっぱい食べたい。
数え切れないほど遊びに行きたい。
たくさん買い物をしたい。
思いっきり笑いたい。
全部──由唯くんの隣で。
『由唯くんの──特別になりたい』
「うん」
ポロポロと零れる言葉と涙に、友人は小さく相槌を打ちながら、優しい眼差しを向けてくれている。
段々、彼に会いたい気持ちが溢れてくるのを感じ、ウチは小さく『会いたい』と呟いた。
「行きな」
差し出されたハンカチと友人を交互に見て戸惑う。
後込むウチを、友人は真っ直ぐ射抜く。
「自分に素直になれ」
アンタは我慢し過ぎなんだよ。
「刹那の好きな場所へ──走れ」
ガタン!
受け取ったハンカチを胸にウチはカフェを飛び出した。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時