├ ページ36
*
「これでっ……最、後!」
リビングに積み重なったダンボールの山。
あの小さい部屋にどうやってこんな量が収納されていたのか不思議に思うよ。
流石に疲れてソファーに座り込む由唯くんに、ウチは労いの麦茶を渡した。
『絶対これ 業者の人呼んだ方がよかったよね?』
「そう?」
でもみんなでやったら早く終わりましたね。
結果良ければ全てよし!とでも言うように額の汗を拭う仕草に、ウチはまたため息を吐いた。
『あとはどうするの?お母さん車持ってないよね?』
「No problem!ちゃんと郵便屋さんを呼んであります」
ウインクする母。
タイミング良く鳴った玄関のチャイムに 来たきたー♪と駆け足で向かっていった。
「はぁーい、こちらが郵便屋さんです!」
「激しく違ぁう!!」
『叔父様?』
「……なんでいんの?」
1番小さなつぶやきだったはずの由唯くんに過剰に噛み付いた叔父様は「いきなりこの人に呼ぼれたんだ!」と素知らぬ顔の母を指さす。
『ご、ごめんなさい!』
「人を指さしちゃだめなんですよ?七瀬くん」
『もう!お母さん!!』
ウチが声を張ったからか、母は目を泳がせた後しょんぼりと肩を落とした。
運送用のトラックにダンボールを積み込み、後は本人が乗り込むのみとなった。
「ここから羽田空港までは遠いし、今夜は近くのホテルに泊まることになりました」
『そう、なんだ』
せっかく晩ご飯は母の好きな物を作ろうと思ってたのに。
「あ、由唯くんこれあげます」
私の連絡先です。いつでも連絡して下さいね♪
「あ、ありがとうございます」
『お母さん?!』
何もかもが急な母にウチは頭を抱えつつ、内心仕方ないと諦めてもいた。
荷物をまとめる時に見かけた書類や読み古した本の数々、本人は休暇で来ていたと言うけれど実際、ここでも仕事をしていたのだ。
きっと、仕事のために海外に戻るのだと。
また、会えなくなる……。
ウチは複雑な気持ちにザワつく胸を押さえた。
「……せっちゃん」
肩に暖かい温もりが乗る。由唯くんだ。
それが背を押してくれた。
ウチは駆け出し、助手席に乗ろうとしていた母を呼び止めた。
『いつでも待ってるから!
───ッいってらっしゃい!』
母は目を見開くと小さく「ありがとう。いってきます」と言葉を零し、嬉しそうに微笑んだ。
*
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時