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「――――七瀬くん、お茶いる?」
『あ―――……』

部屋に入ってから荷物の整理をしていたと思っていたが、手際よく、部屋に常備されたポットでお湯を沸かしていた刹那。
要る。と、返事しかけた言葉を、途中で止める。


(どうしてここで、“七瀬くん”に戻るんだよ)
 さっきは名前で、呼んだくせに―――

無言で視線を送っていると、刹那はきまりが悪そうに視線を逸らせた。

「ゆっ―――由唯、くん…」
『ありがとう、要る』

刹那の言葉を聴き、由唯は満足げに返事を返した。


大体―――刹那も刹那だ。
好きだと伝えた相手との相部屋を、了承するか…?普通。
本気で“弟”だと思っているなら、どうしてあそこで照れるんだよ。

マグカップに二つ、お茶を煎れる刹那の姿を、横目見ながら思考を巡らせる。
春からずっと―――刹那に 心 かき乱されてばかりだ……

「――――それでね、現地のスタッフさんも優しくて、今日は女性ライダーさんにも声かけられて……」

前のソファーに座り、両手でマグカップを持ちながら今日の出来事を話してくれる刹那。
いつもより早口で、多弁で……変に意識して緊張していた由唯より慌てているから、なんだかおかしくなる。


くすっ
『せっちゃん 慌てすぎ―――』
「慌ててないやい!!」

そう言う声も、裏返ってる。
―――可愛いなぁ、もう。

『叔父にも“自律”しろと言われているから―――』
「自立? 由唯くん、起業するの?」

マグカップのお茶を口に含ませていると、目の前で刹那は首を傾げる。


あ―――ね、漢字が違う。 何で伝わらないかな……
君には嫌われたくないから、“ 自律 ”できるように頑張るよ――――うん。



お茶で一息ついた後、由唯達は先に大浴場で入浴を済ませ、夕食の会場に集まった。
まだ食前酒しか並んでいないというのに、大人組の頬は赤い。あれから部屋で一飲みしていたな。
夕飯の膳が運ばれてからも、既にアルコールの入った大人達は食より飲みに集中しているようで、片手はジョッキを離さず、よくもまぁ上戸が揃ったものだと呆れてしまう。

大人達の開いたグラスに酌をしようと立ち上がる刹那を、由唯は腕を引いて座らせた。

『しなくていい』

少し声が不機嫌となってしまったが、刹那に対して機嫌が悪いわけではないから、許して欲しい。
というよりは、風呂上りで浴衣姿の可愛い刹那に酌をしてもらおうなんて(そんな羨ましい事)させるか。

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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年8月9日 9時

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