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申し訳なさそうに肩を縮こまらせて話す彼女は、とても可愛らしい。
思わず、笑ってしまったけれど―――ごめんなさい あまりに微笑ましくて…嬉しくて。
由唯は、プライベートに立ち入られる事をとても嫌う。それは、家族に対しても同様で―――姉の私に対しても来訪時は必ず連絡をするように言うし、母の場合は居留守を使う事もある。
そんな彼が、彼女にだけ心を開いているのなら―――それはとても、素敵な事。
『いえ―――由唯が貴女に預けたものなら、ご迷惑でなければ持っていて下さい』
暫く雑談を交わした後、刹那と共に由唯の部屋を訪れた。
やはり、家主不在の家に入るのは緊張する―――という彼女と、ヴァイオリンを返したかった初夏の利害が一致し、一緒に中に入る事となる。
「お…お邪魔します―――」
遠慮がちに部屋の中に入る彼女は、とても微笑ましい。
もう、何度もここを訪れていると聞いていたのだけれど―――
靴を揃え、手洗いと嗽を行う…きっと、しっかりとしたご家庭で、大切に育てられたのだろう。
刹那に倣い、手洗いと嗽を済ませた初夏は、リビングのローテーブルにヴァイオリンを置く。
その間、玄関まで迎え出てくれたセツを抱いて、刹那は手際よく飲み水とご飯の交換を行った。
部屋の換気も、しておいた方が良いわね―――
室内は全館空調換気システムが整備されているとはいえ、きっと由唯は窓を開けた換気は、していないだろうから。
リビングの窓を開けると、外からは清々しい初秋を思わせる風が舞い込む。
途端、強く吹き込んだ風に、刹那と初夏は髪を抑えた。
「わぁ〜気持ちのいい風!」
『ごめんなさい、驚かせてしまったわね』
「いえ、全然!」
ニコリと笑う彼女に、つられて初夏も笑顔を零した。
先程の風で捲れた雑誌を片付けていると、ふとリビングボードに落ちた一枚の紙に気づく。
『あら―――何かしら』
真ん中に折り目が入り、少し皺になった紙を手に取ると、そこには文字が書かれていて―――
「初夏さん―――どうかしましたか?」
手を止める初夏を心配した刹那が、初夏の手元を覗き込んだ。
『―――これ……体育会の?』
「――――っあ」
確か今年の体育会で、由唯は借り物競争に出ていた―――。
そのお題の紙を、大切に持っていたようだ。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時