心の鍵 【？ side】 ページ24
＊
今日は―――メンテナンスを終えたヴァイオリンを、弟の家に返しに来ました。
10分前にメッセージを送ったものの、相変わらず返事は来ないまま。
インターホンを押すも、中からの返事はない。
精密な楽器の為、温度や湿度の変化が激しい玄関外に置きっぱなしにするわけにもいかず。最近例の件で立て込んでいるようだし、不在なら、また夜にでも出直そう……。
諦めて踵を翻した、その時―――
「ゆ―――ッ。七瀬くんの、お姉さん？」
エレベーターホールから、黒のふわふわとした髪が、声をかけてきた。
『あら―――刹那さん？』
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『―――どうぞ。お口に合うと、いいのだけれど』
初夏は、刹那を家に招き入れ、お茶と今朝作ったクッキーを出した。
彼女はお料理が得意なようで、偏食の強い由唯が唯一、彼女の手料理なら残さず食べるという―――
そんな女の子に、手作りを差し出すなど、おこがましいけれど……
「とても美味しいです！」
そんな初夏の心配を他所に、彼女は笑顔を浮かべて食べてくれる。
―――本当に、いい子ね。
美味しそうに食べてくれると、こちらまで幸せな気持ちになる…
由唯は―――初夏の作るものを、食べてはくれないから。
『せっかく来てくださったのに―――ごめんなさいね。由唯、不在みたいで』
メッセージの返信もないから、いつ帰宅するのかもわからないし。
託けが出来る事でしたら、私で宜しければ伺いますよ――
提案した初夏に、刹那は少しばかり視線を泳がせた。
「あの―――……その、すみません。実は―――」
合鍵を、預かっていまして―――
(あら、まぁ！)
元は、七瀬くんが熱を出した時に、叔父様から預かった物なのですが、返そうとすると“色々都合が良いから”と受け取ってくれなくて―――結局、ウチが預かったままなんです。
今日も、遅くなるから合鍵でセツの様子を見に来て欲しい…って。
「やっぱり―――いけないですよね…」
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作者名：しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年8月9日 9時
