├ ページ12
*
『遅いですよ───お母さん』
ウチの言葉と同時に脱ぎ去った帽子。
隠されていた黒髪が風にそって揺れ動く。
「お待たせしてすみません、刹那」
満面の笑みを浮かべた母に、ウチは安堵の息を吐いた。
“「貴女、母親に捨てられたんじゃ……?!」”
「失礼な。捨てていません。置いていったのです」
情報は常にアップデートしていくものですよ?
画面に向けて微笑むと盛大な舌打ちが返ってきた。
おー怖い怖いと肩を竦めながらウチの傍に膝をつき、拘束具の解除に取り掛かった。
『どっちも似たように聞こえるけど』
小さくボヤくと 全然違いまーす。といつもの母がそこにいる。
それだけで、ウチの緊張が解れていく。
“「仮にそうだとして、どうやってここの場所が分かりましたの?」”
冷静に徹しようとしている彼女の声色が僅かに震えている。
「簡単なことです。彼女に発信機を着けて追いかけた。ただそれだけのこと」
あっけらかんと言い退ける母に千世さんは言葉を失っていた。
そう、これは攫われたと見せかけた
───囮作戦
一般人であるウチになら、必ず接触してくるだろうということで計画されたのだ。
母は最後まで渋っていたけれど、せんせいとウチで何とか説得しここまでこじつけることが出来た。
「はい、解けましたよ」
『ありがとう』
拘束が外れた手首には抵抗した後が傷になって残っている。
これはお風呂で沁みるやつだね。
「刹那を人質に由唯くんを揺すろうって計画だったみたいだけど、残念。失敗ですね」
『お母さん、煽るような言い方やめて』
このままだと逆上した彼女が何をしでかすか分からない。
必要以上の挑発は無意味である。
“「──ッ!貴方達!
何をのんびり寝ているのです!!
早く彼女達を捕えなさい!!」”
彼女たちの命令とは裏腹に、倒れた男性達は「体が動かない」としきりに叫んでいる。
「当然です。
彼らには筋肉細胞を動かす神経に指示を出す部位を麻痺させる特殊な電磁波を流しましたからね」
得意げに腰に手を置く母にウチは目を瞬かせた。
「海外には話も聞かず暴れ出す患者も多いですから、それらの者に対しての適切な処置のひとつです」
“「貴女は、何者?!」”
当然の問いかけに母は口角を上げ胸に手を置いた。
「綿貫彩子。国を渡り歩くフリーの医者です!」
*
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月9日 9時