想いよ届け 【由唯side】 ページ50
*
バイクイベント―――
残暑の厳しい中。今日も叔父の会社のブースに立つ由唯―――。
600ccクラスライセンスの取得に加え、一部の雑誌に大々的に取り上げられていたこともあり、俄かファンの来訪が後を絶たなかった。作った笑顔を顔面に張り付けながら、一方で刹那に言い寄るライダー達(男)に目を光らせておくのは、容易ではない。
早く休憩時間になって―――刹那の傍に行きたい。
脳裏を巡るのは、そればかりだ。
ふと刹那の方を見ると、バイクイベントには珍しい装いの女性が彼女に声をかけていた。
つばの広い帽子を被り、白のロングワンピースを着ている―――。
女性ライダーの増加だけでなく、最近はタンデムグッズも増えたため恋人と共にイベントを訪れる客も多く、女の人を見かける事も珍しくなくなったが、クラッシックコンサートの帰りかと思うような装いは、この会場ではかなり目立つ。
「―――七瀬圭吾様のブースは、こちらで宜しかったでしょうか?」
パンフレットの配布を行っていた刹那は、機転を利かせて対応する。
「あ、はい!お取り次ぎましょうか?」
「いえ、圭吾様ではなくて―――由唯さんに……七瀬由唯さんに、取次ぎを願えますか?」
不思議な女の来訪に、刹那を気にかけていた由唯は、呼ばれる前に彼女の元へと駆け付けた。
『―――俺だろう?代わるよ、せっちゃん』
「あ、うん」
”有難う、任せた!” ”了解、任されました!”
笑顔とアイコンタクト交わし、刹那が席を外そうとした時
……女は帽子のつばを上げて刹那の背中に呼び掛けた。
『―――綺麗な、緑の瞳……。貴女が―――由唯さんにミサンガを渡した方?』
ふふ―――とても、可愛らしい方ですわね。
その淑やかな振る舞いと顔を見て、忘れかけていた記憶が蘇る。
―――この女が……どうしてここに。
柔らかく微笑んだその顔が、作られた笑顔である事くらい、先日の見合いの席で分っている。
淑やかを装っていても、彼女はかなりしたたかだ。
これ以上隙を見せる訳にはいかない―――現にこうして、あの時の隙が面倒事に繋がっている。
振り向いた刹那は、緑の瞳に戸惑いを浮かべている。そんな刹那を背に隠し、凍らせた表情を張り付けた由唯は、女を睨んだ。
そんな由唯の視線を諸共せず、彼女はニコリと作り笑顔を浮かべた。
『お目にかかれて光栄です、黒髪のお嬢さん。私は由唯さんの婚約者―――須藤千世と申します』
・
・
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時