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「──痛ッ!」
意識はある、混濁は無い。
血中酸素値は……92パーセントか。
左中指先にはめた機械を確認して内心また舌打ちを落とした。
頭部の出血は例え小さくも命の危険性が高い。
それの影響か血液中の酸素値が低くなっている。
これは早く病院に送らないといけないな。
それに、先程触った際に痛みを発した部位、もしかしたら内蔵もやれているかもしれない。
一刻を争う事態に、ストレッチャーがくるまでの処置を頭の中で組み立てた。
「凄……」──カシャ
耳障りなシャッター音。
目障りな人の波。
思わず『──邪魔』言葉が溢れた。
『関係ない奴、興味本位でいる奴、特に写真撮ってる奴──処置の邪魔になるだけだからどっか行ってくれない?』
頭上で「はぁ?!」「何それ」「こっちは心配してるのに」と野次が飛び交う。
だーかーらー
『それが邪魔だって言ってんのよ。
ストレッチャーきたら素直にどいてくれんの?!手伝ってくれんの?今だって見てるだけで何もしないし。
心配ならここじゃなくても出来るわ。
撮影なんてプライバシーの侵害しかないのがわからないのか?!』
とりあえず邪魔なの!散れ!どっか行け!!
言葉がどんどん荒くなる。
その間も処置の手は止めない。
屋外から救急車のサイレン音が聞こえる。
『──
怒鳴りつけると、蜂の子を散らすように人がはけていく。
それを見計らったように現れた救急隊員とストレッチャー組に状況説明を手早く済ませ、同乗を求められたがそれを拒否。
医務の男性に押し付けた。
『ふぅ……』
医務室に戻り軋むスプリング音を響かせたデスクチェアに深く腰を下ろした。
久しぶりの医療処置後の気だるさに四肢を外に投げ出した。
疲れた。いろいろと。
「……相変わらずの手腕ですね」
『女性の部屋にはノックしてからって習わなかったのか』
しましたよ。と言いながらこちらに歩み寄ってくる圭吾に『あっそ』と何ともない返事を返し投げ出した足で器用にチェアを回転させた。
「目回りますよ」
『それは嫌だな』
直ぐに脚でブレーキをかけてまた四肢を投げ出した。
なんともだらしない格好である。
「“自分は日本の医療に関われない”」
『……』
「同乗を拒否した理由が海外に渡った理由ですか」
『……それを知ってどうするの』
もう、キミには関係のない事だ。
頭上で息を飲む音が聞こえた。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時