ゆいのゆめ 2/3 【由唯side】 ページ5
*
石畳の続く長い廊下を、気が付けば真っすぐに歩いていた。
この感覚には、覚えがある。
―――厨二病に沸いた、俺の夢の中だ。
はぁ。
大きなため息を零せば、隣から茶色の長髪がふわりと揺れた。由唯の右手を繋ぎ、若草色の大きな瞳で覗き込む。
「大丈夫ですか?パパ」
(―――パパ)
慣れないその呼び方に、あの夢の続きだと確信する。
大丈夫じゃないのは、俺の思考の方だ。
『大丈夫だよ、セツ。ところで、“ママ”はどこにいるんだ?』
薄茶色の頭に手を添え、髪をくしゃくしゃと撫でる。
頭を抑えながら嬉しそうに笑うセツは、姿かたちは大きく異なるが、仔猫のセツを彷彿とさせた。
「ママなら―――あの扉の向こうです」
セツが指差すそこには、大きな扉が現れる。今の今までこんなところに扉などなかった。
(随分と―――都合のいい夢で)
由唯は、目の前に突如として現れたその大きな扉を、両手で開いた。
大きな広間に、カツカツと自分たちのヒール音だけが響く。
この雰囲気―――いかにもボス部屋という感じだ。
途端、目の前に大きな鼻息が聞こえる。キランと光る目のようなものは長い角のついた牛の頭についており、黒い影から現れる大きな体は人のよう―――
イメージを名詞にするのなら、どこぞの神話に出てくるミノタウロスが、しっくりくるだろう。
その見上げる大きさに、由唯は息を呑む。
『何これ―――チュートリアルなしにいきなりボス戦的な?』
「大丈夫です!パパなら何とかなります」
何が大丈夫なのか、皆目わからない。
腰に刺さった剣を鞘から抜いては見るが、由唯に剣の心得など全くない。
「信じる心が力になるのです!頑張って、パパっ!」
可愛い娘に応援してもらえるのは心強いが、この状況―――何をもって信じていいのやら。
強靭な腕から降り降ろされる斧は、石床をいともたやすく砕く。
とりあえず、あの斧にあたって無事でいる気がしない――由唯は斧の繰り出される刃筋から逃げた。
幸い―――動体視力と予想能力(カン)は冴えている。
与えられた緊張感も、相手の動きを予測して前に攻め出るレースに、似ていなくもない。
「パパ―――あそこ!!」
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時