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挨拶を交わすと、黒髪の女の子は お世話になっているのはウチ…いえ、私の方で―――と慌てた様子を見せた。
とても可愛くて、明るくて―――素敵な女の子。
最近由唯の雰囲気が明るくなったのは、きっと彼女がいてくれるからなのだろう―――。
「無塩バター…でしたよね?家にあるから、持ってくるわ!」
「えっ、あ―――いえ…そんな、悪いです」
くるくると表情の変わる彼女は、とても可愛らしい。
見ているこちらまで、顔が綻んでしまう。
(勝手に彼女とお話した事―――由唯に怒られてしまうかしら…でも)
―――こんな可愛い女の子なら、私も応援したくなるわ。
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『ただいま―――』
玄関を空けると、セツが鈴を鳴らして出迎えてくれる。キッチンからは、バターの甘い香り―――
『あれ、せっちゃん……?』
「お帰りなさい!―――由唯くん」
刹那の両手のミトンの上には、今焼きあがったラングドシャが並べられた天板が。
不思議に思って見ていると、留守中に姉が家に来て、バターを分けてくれたという。
『初夏が来たの?!』
「うん?とても素敵なお姉さんだね!」
にこりと笑う刹那。
キッチンの隅にはまた桃の箱が置かれており、恐らく母からの託けを届けに来たのだろう。
『―――……』
無言の由唯に、「ダメだった?勝手なことしてごめん」と慌てる。
エプロン姿で、そんな風に上目遣いで見られて―――ダメとか言えるわけがない。
『いや。刹那が大丈夫なら、別に……』
「大丈夫、って?」
きょとんと小首をかしげると、彼女はくるくると表情を変えて楽しそうに話した。
孤児院では刹那が年長者になるため、お姉さんに憧れる―――と。
『―――……せっちゃん、俺のお嫁さんになったら、姉(初夏)ができるよ?』
「えっ?!!」
『おっと……』
慌てる刹那の手から滑り落ちそうになる天板を、近くにあった布巾で下から支える。
「わっ?!ゴメン―――大丈夫?」
『うん、平気』
視線を逸らせ、耳を赤くする刹那は、「揶揄わないで―――」というが
―――俺は、結構本気なんだけどな……
刹那が喜んでくれるなら、初夏に会わせるのも有り―――か。
甘いクッキーの香りに包まれながら、由唯は一人、打算的な思考を巡らせるのであった。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時