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ココアの缶を買ってソファに座る。
静まった空気に自動販売機の機械音が継続的に鳴り響いていた。
無音よりは落ち着くかも。
それでも、眠気は戻ってこない。
ぼんやりと窓の外を眺めていると、一瞬だけ光の柱が走ったような気がした……
“──遠くで雷鳴が轟いた気がした”
『っ!』
不意打ちのフラッシュバックに、ウチは声にならない悲鳴を上げ反射的に立ち上がった。
「わっ!」
後ろで驚く声、ウチは過敏に肩を震わせ恐る恐る振り返った。
『っ………な、七瀬くん?』
両手をあげ降参ポーズをとっている由唯くんが目を瞬かせて立っていた。
「珍しいね。せっちゃんがこんな時間に起きてるの」
普段は早めに寝ちゃうのに。
たぶん、普段のメッセージアプリでのやり取り時間を指しているのだろう。
確かにウチは夜の10時にはやることがない限りはベッドで目を瞑っていることが多い。
だからそれ以降の返信はいつも朝になってしまう。
ウチは苦笑気味に頬をかくと 眠れないことを話した。
カコン……
缶の落ちてくる音が嫌に大きく聞こえる。
それにすら肩を揺らすウチは相当さっきの話にビビっているのだと内心不甲斐なくなった。
隣に腰を下ろしてきた由唯くんは、缶のプルタブ(正式にはステイオンタブ)を開け飲み物を口に仰いでいる。
『七瀬くんはどうしてここに?』
「俺、夜型だからなかなか眠れなくて、飲み物も切れたから気晴らしに」
後半は一緒だね、と細まる飴色にウチの緊張が自然とほぐれていく。
お礼も兼ねて 同意と笑みを返した。
『七瀬くんは「名前の呼び方、戻ってるね」』
前は呼んでくれたのに、いたずらっ子のような笑みを浮かべ小首をかしげてくる由唯くんはあざと可愛い。
ウチは出かけた言葉を失ったかのように口をパクパクさせた。
『……あの時は、野菜を食べるって条件だったし「その後も何回か呼んでくれたよね?」あっ、れは……』
夏祭りや花火の雰囲気でそのまま“由唯くん”と呼んでいたのは自覚している。
帰ってから何度 気恥しさに枕を叩いたか。
やっと火照りが覚めてきたところだったのに、この人は……。泳ぐ目の端に飴色がチラつく。
──そらさないで──
そう言っている気がした。
ウチは、気恥しさを残しながら彼と向き合う。
僅かに見開かれた飴色の奥を見据えるようにウチは真剣に見つめた。
『ゆ──「おい七瀬!消灯はとっくに過ぎているぞ」』
“い”の音は掻き消され、同時に引き寄せられた。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時