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「風船どうぞ〜」
由唯の言葉を遮る様に、隣にふわりと浮かぶ、風船が差し出される。
『―――?!』
刹那の視線も、その赤い風船に向いてしまう…。
「花火のフィナーレに、皆さんで風船を空に飛ばすイベントをしていまして―――」
片手に沢山の風船を握ったうさぎの着ぐるみが、風船を差し出してきた。
周囲を見れば、猫やら牛やらの着ぐるみがそこら中で風船を配っている。
(――― 今?)
大切な事を伝えるタイミングを奪われた由唯は、うさぎの着ぐるみを少しばかり睨む。
「あ!大丈夫です、これは自然に還る素材で作られている風船なので、環境にも優しいですよ―――」
(いや、言いたいのはそんな事じゃない―――)
表情に出さぬように、内心で文句を浮かべる由唯の気など知らず、刹那は「そうなん?!」と、興味深そうにうさぎから風船を受け取っていた。
「凄いね、この風船―――」
『―――SDGsの一環で、企業のこう言った取り組みは当たり前になってきたからな―――』
(刹那に伝えたかったことも、こんな事じゃない……)
はぁ……。
内心で深い溜息を落とす由唯。
気づけば周囲には人が沢山集まって来て、風船を持った人達で騒めき立っていた。
「由唯くんほら―――花火始まるよ」
刹那の伸ばした指の先に、一筋の光が 空へと駆け上がる。
光に遅れて鳴る笛様の音……そして
大輪の花火と共に、轟音が夜空を鳴らした。
歓声に迎えられた花火が、次々と空を彩る。
夢中で空を見上げる刹那の横顔に、まぁいいか と、由唯は胸を降ろす。
ベンチに置かれた刹那の手に自らの手を重ねる―――
一瞬ちらりとこちらを見たが、直ぐにその視線は、花火を見上げた。
「―――綺麗だね」
『―――うん。綺麗だ―――』
一斉に打ち上げられる花火のフィナーレ…誰が号令をかけたのか、自然と空には風船が放たれた。
花火の光に照らされ―――その灯の影を作りながら
ふわふわと登っていく風船。
由唯と刹那は自然と視線を合わせ、受け取った風船の紐を一緒に握る
そして、同時に手を離した―――。
ゆらり ふわり 夜空に登る赤い風船を
見えなくなるまで見送る―――
夏祭の淡い思い出を乗せて。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時