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翌日―――
“バイクに乗るだけが練習じゃない”
叔父に、サーキットから追い出されるように休暇を言い渡される。午後からは相棒にも乗るな(メンテナンスの為)と言われ、電車を使って家まで帰る羽目となった。
(はぁ―――どうしよう)
暑い夏の午後。街に戻ってきたは良いが、いざ休暇となっても何をすればいいのか分からない。
かと言って、真っすぐ家に帰って勉強する気にもなれず、今日は一日サーキットに居る予定だったためセツは姉に預けていた。
(本当に―――。俺、バイクを取られたら何も残らないな―――)
改めて、己のプライベートの貧しさにため息が零れる。
無意識に吸い寄せられるように入ったのは、本屋のバイク雑誌コーナー。結局、する事なんてここしかない…
だが、何気なく手に取った雑誌の特集ページを見て、由唯は雑誌を閉じた。
“モトレース250ccクラス 優勝を征した注目株 七瀬由唯 プロレーシングへの転向か”
先日のレースが大々的に掲載されている。
(まだ、プロになると決めたわけじゃない―――)
本人の意思とは裏腹に、周りが挙ってはやし立てることに、苛立ちをも憶えてしまう。
(こんなの―――アイツ等と同じじゃないか。)
由唯は被っていたキャップ帽を目深に被り直し、雑誌スペースを後にした。
「―――あれ、七瀬君？」
背後から掛けられるその声に、振り向く由唯。その声の主が“誰”なのかなど、直ぐにわかる。
胸にうごめく苛立ちは、その澄んだ声に一瞬にして消し去られた。
『―――せっちゃん？』
キャップ帽子被っているなんて、珍しいねと笑う。
流石に、この見た目でここ(バイク雑誌コーナー)に立っていれば、目立つからな。
ロードレースに出場し、注目を浴びることが多くなった由唯は、一部のバイクユーザーから街中で声をかけられることが増えた。薄茶色の髪に鮮やかな緑のメッシュを入れていれば、まぁ目立つ事は確かだ。
苦笑いで返しながら、『せっちゃんは、お買い物？』と尋ねると、緑の瞳を柔らかく細めて頷いた。
「うん。妹弟達の、算数ドリルを買いにね」
その手には様々な学年用に、数冊のドリルが握られている。
夏休みの勉強―――か……
夏季休暇の課題を刹那に手伝ってもらった手前、直視できない由唯は視線を泳がせた。
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作者名：しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ：なし
作成日時：2021年8月3日 23時
