花火 【由唯side】 ページ16
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“600ccクラスのライセンス取得おめでとう、由唯。まぁ、この前の250ccクラスの総合点はぶっちぎってたから、取れると思っていたけどな”
『―――うん』
薄暗い部屋のスピーカーに、叔父―――七瀬圭吾の声が響く。インカムマイクを片耳に着けたまま、ベッドに転がり右手を伸ばす由唯は、緑を基調とした3色で織られたミサンガを見つめた。
“で?600ccクラスには―――出場するのか?”
『―――………』
夏季休暇に入り、由唯はかねてから悩んでいたロードレース選手権に出場していた。今までのアマチュアレースとは異なり、プロたちが鎬を削るこのレースは、1000ccクラスを頂点に4クラス存在し、アマチュア上がりの由唯は250ccクラスに参戦し戦績を伸ばしていた。
アマチュアレースで使用している1000ccと、このロードレースで使用する250ccとでは車体の重さや操作性が大きく異なる―――そこは、叔父からの指導と専属のメカニックを付け、夏季休暇という圧倒的な練習量に物を言わせて勝ち上がってきたのだ。
即答できなかった由唯に、叔父は、まぁゆっくり考えるといい。オレはお前の夢を応援する―――と告げ、通話を切った。
電気のついていない部屋の中は薄暗く、窓の外からの青い光が射しこむのみ。
セツは、由唯の枕元で丸くなって寝ている…昼間に遊び過ぎたせいだろうか。
600ccクラスは参加する人数も多くマシンの性能に大差がないため激戦が予想される。正直、今までのように容易に勝てるクラスではない。プロレーサーとして輝けるのは、並みならぬ努力を続ける一部の“天才”達だけなのだ。
頂点を目指すなら、本気でプロを目指す覚悟がいる―――
―――いつまで、叶わない夢を追うつもりだ。
父の言葉が――由唯を追い詰めていた。
(分かってる―――残された“自由”な時間は、もう少しだって事くらい……)
重い溜息が、音のない独りの部屋に響いた。
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時