無意識に望む【刹那side】 ページ1
*
────これは夢だ。
深い森の中、小鳥のさえずり、風に揺蕩う葉先の
全て朧気に見える風景。
現実味のない感覚に、すぐにこれが夢だと理解出来た。
それにしても、綺麗な森だなぁ……。
『ここは……「あれ?ここに人がいるなんて珍しいね」!』
呆けていたからビックリして肩が跳ねる。
まさか、夢の中なのに声をかけられるなんて思わなかった。
振り返ると目に止まった鮮やかな赤に彼の愛車が頭を過ぎる。
「大丈夫?」
『え?あ、はい』
鼻先がつくくらいの距離で心配げな瞳が揺れる。
ウチがもう一度 大丈夫、と答えると“彼女”はゆっくりと後退し安心したように微笑んだ。
「私は薬剤師をしてるから体に異変があったら言って下さい」
『ありがとうございます。──つかぬ事をお聞きしますが、ここはどこですか?』
「え」
今度は彼女が呆ける番。大きな瞳をまん丸にさせこちらを凝視している。
かと思ったらハッと正気に戻り、またズイッと顔を近づけてきた。
身を引くウチの腕を引き顔色を伺ってくる。
手が腕を伝って肩、首筋へ添えられる。
これは
「……脈拍が、少し速いかな」
あ、やっぱりバイタルチェックしてる。
どこか他人事のように彼女の行動を目で追う。
母を彷彿とさせる手際の良さは、仕事が似ているから?
彼女はウチにいくつかの質問をした後、口元に手を当て何やら思考を始めた。
「──もしかして、記憶喪失?」
徐に開かれた口から零れたのは自信なさげな言葉。
自分の名前は言えるのに、ここの地名も時間も分からない。
一時的な記憶障害と判断した彼女は、ウチに一緒に来ないかと提案してきた。
行く宛てのないウチにとって有難い申し出に迷わず頷くと彼女は安堵し微笑んだ。
よく、表情の変わる人だ。
前を歩く赤が、動きに沿って揺れる。
それを見る度に彼の笑顔が頭をチラつき
───凄く、会いたい気持ちになった。
「おーい」
ふと、前方から声が聞こえ誰かがこちらへ駆けてくる。
良い身なりの男性が2人。
1人は彼女に話しかけており、1人は……
『「……」』
見開かれた瞳と目が合う。
絡む瞳の色が、どこか彼と似ているような気がして目が離せない。
「大丈夫?」
声をかけられ、軽く跳ねた肩。
心配げに見てくる彼女に大丈夫と告げ、先に進むよう促した。
「彼らは私の友人で───」
──グラリ
視界が揺れ、霞み……漆黒が目の前を支配しようとしていた。
*
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作者名:しゃっぽ、kohaku x他1人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2021年8月3日 23時