femme fatale (ページ47)

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月から隠れて会おうページ47

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昼過ぎぶりのホテルの廊下を歩いて、ただひたすらに足を前に進める。

つい数時間前に見たのと同じ光景が目の前に広がっていた。

歩みを止めることなく、質のいい絨毯を踏み締めていく。

そしてある部屋の前で、立ち止まった。

息を一つ吐いてから、ドアの横にあるインターホンを鳴らした。

隔てた一枚の扉の向こうから、物音が聞こえた気がした。

俺の心臓は痛いくらいに早く鼓動を繰り返す。

彼女が出てくるのを待ちながら、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。

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ガチャ、と音がして扉が開くやいなや、俺は部屋の中に吸い込まれるようにして入っていった。

「…ジョンハンくん、お昼ぶり…っ、」

そう言って俺を迎え入れたAをきつく抱きしめた。

昼過ぎにここを訪れてから、またこの部屋に入ってくるまで、ほんとうにもう一度Aに会えるのか、不安で不安で仕方がなかった。

楽しそうに今日の買い物の成果を話すドギョムの話は、きっと8割は頭を通り抜けていたと思う。

宿舎に帰ってからも気が気じゃなくて、着の身着のままでずっとスマホを手にAからの連絡を待っていた。

「くるしいよ、ジョンハンくん」

なんて、腕の中のAが小さく声を上げる。

そんなのはお構いなしに、俺はAの存在を、俺の腕に抱かれている愛しいひとを確かめるように、ぎゅっと力を込めた。

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どれくらいの時間がたっただろう、俺はゆっくりと、Aを放した。

Aはそのあとずっと静かに俺の腕の中にいて、ゆっくりとオレの背中に腕を回した。

瞬間、不覚にも涙が出そうになった。

もう２度と、会えないと思っていた。

死ぬまでAに焦がれたまま、生きていくのだと、そう考えてやまなかった。

でも確かに、Aは俺の腕の中にいた。

華奢な肩も、柔らかくて綺麗な髪も、真っ白な肌も、甘い香水も、すべてあの時のままだった。