femme fatale (ページ45)

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「ジョンハンくんはもう、私のことなんて、忘れてたよね。

…嫌いに、なってたよね」

そう涙目でつぶやいてみせる、目の前のひと。

あぁ、きみは本当に。

…ひどく残酷で、それでいて美しい。

「…俺がAのこと忘れられると思うの？

俺がAのこと、嫌いになれるって？」

目の前の華奢な身体を強く抱いて、そう問いかける。

「…俺は多分、Aにどんなに酷いことを言われても、傷つけられても、お前のことがずっとずっと好きなんだよ」

Aがいなくなってからの世界は、どこか彩りをなくしたように見えて、酷い時はAの使っていた香りに包まれないと眠れないんだ。

そんな俺が、どうやってAを嫌いになれるんだよ、

嫌いって言ったら、楽に嫌いになれればいいのに。

そんなことも許されないくらい、君に囚われてるんだ。

静かな部屋の中に、突然スマホのバイブレーションが響き渡った。

「…出なくていいの？」

そう囁くA。その声すらも心地よくて、このまま溺れてしまいたい。

相手はわかっていた。きっとドギョムだろう。何度も何度も、繰り返し鳴り続けるスマホに、俺はもう一度強くAを抱きしめてから、ゆっくりと腕から力を抜いた。

「ここに泊まってるんだろ、

…夜、また来るから」

Aの頬を撫でて、そう囁いた。

Aは何も言わずに、デスクに向かうと、さらさらとメモに何かを書いたあと、それと一緒にカードキーを俺にひとつ差し出した。

「…私の番号。夜、連絡するね」

静かに受け取った。ちらりとメモを確認してみれば、確かに電話番号が書かれていた。宝物でも持つみたいにぎゅっと握りしめたあと、Aの存在を確かめるように、もう一度強く抱いてから部屋を後にした。