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「っ、はぁ、!
っ…A、!!」
客室階に上がるエレベーターホールの前で、やっとその背中に追いついた。
目の前の華奢な手首を掴んで、その名前を呼んだ。
ゆっくりと振り返るその姿が、まるでスローモーションみたいに俺の瞳に映る。
そうしてこちらを向いた彼女は、やっぱり、紛れもなくAだった。
「…ジョンハン、くん?」
俺の名前を呼ぶ、前と変わらないその声に情けなく涙が出そうになる。
Aはしばらく俺の目を見つめた後、
「…来て?」
と言って今度はAが俺の手を取った。
呆然としている間に俺はエレベーターに乗り込んでいて、Aは手慣れたようにカードキーをボタンの下にあるセンサーに翳した。
ピ、と電子音がして客室階のあるフロアのボタンが点灯する。
エレベーターが動き出した。
その間も、Aは俺の手を握ったままだった。
いまだに、この状況をできないでいる。
『ーー階です。』
アナウンスがして、エレベーターの扉が開いた。
Aは俺の手を引いて歩き出す。
静かなホテルの廊下を、2人で歩いた。
これは現実なのだろうか、もしかして夢なのかもしれない。
そんな風に思えるほど、今俺の目の前に広がっている光景は非現実的で。
それでも、確かに握ったAの手のひらの感触が、これは夢なんかじゃないと知らしめているようだった。
ある部屋の前でAの足が止まる。
ドアに設置してあるセンサーにカードキーをかざしてロックを解除すると、扉を開けて、手を引いて俺を中に招き入れた。
バタン、と扉の閉まる音がした。
瞬間、俺はAの香りに包まれた。
「…ジョンハンくん、ごめんね」
俺を抱きしめながら、俺の胸にもたれながら、Aはそう呟いた。
それは、何に対してのごめんなの。
何も言わずに俺の前から消えたこと?
俺との約束を破ったこと?
…俺の気持ちを知ってて、無碍にしたこと?
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作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時