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手にしていたスマホをテーブルに置いて、カップの持ち手に手をかける。
鼻腔をくすぐるコーヒーの香りに、なんだか気分がすっきりした気がした。
さっきまで俺の中の6割を占めていた眠気が波のように引いていく。
湯気とともに香りを運ぶコーヒーに恐る恐る口をつける。
飲み慣れた苦味が口に広がった。
ゆったりとしたクラシック音楽が流れる中柔らかなソファでコーヒーを嗜む。
さっきまでは疲れでもう何も考えられなかったけど、それとは打って変わってなんとも優雅な時間だ。
またスマホの中の電子的な世界に戻るのはなんだか勿体無い気がした。席から見えるフロントあたりを見つめながら人間観察でもすることにしよう。
背もたれに体重を預けながら、ぼーっと人の行き交いを眺める。
あの2人は夫婦?いやカップル?旅行かな。記念日を祝いにホテルに来てるのかも。
あそこの家族はソウル観光かな。お姉ちゃんと妹が手を繋いでて可愛らしい。これからどこに行くんだろう。
あの人はどこの国から来たんだろう。韓国人じゃなさそうだ。
なんて、くだらない妄想を頭の中で繰り広げる。
時々コーヒーを口にしては、その穏やかな雰囲気に絆されるようにゆっくりと息を吐いた。
そろそろドギョムから連絡きてたりしないかな、なんてスマホを手にしようとした、その時だった。
「っは、?」
視界の端に映った人影に、体が凍ったみたいに身動きできなくなる。
そのまま、その人を目で追いかけて、数秒。
今度は何かに弾かれたように身体を起こして、ポケットに入れていた財布から多めにお札を出してテーブルに置くと、急いで駆け出した。
そんなはずない。今になってどうして。
でも、
あれは、確かに、
Aだった。
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作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時