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宿舎の中に招いても、ヌナは終始嫌そうな顔だった。
今をときめくアイドルの宿舎だよ?もうちょっと喜んでもいいんじゃない?
なんて言えば無視される未来は目に見えているから今は黙っておこう。
「…それで、なにが聞きたいんですか」
「…ヌナさ、なにか、目的があるんじゃないの?
普通6年間も追い続けた夢をあきらめて、それを支える側に回るなんてできないよ。自分がそっち側にいるべき人間だったはずなのに。
それでもヌナはこうしてここにいる。スカウトも受けて、マネージャーとして、社員としてよく働いてる。
…ねぇ、なんで?」
ヌナに回りくどい言い方をしてもきっとのらりくらりと躱されるだけ。だからこそ、ストレートに、そう尋ねた。
ヌナは少し口を開くのをためらった後、
観念したとでも言うように一つため息を吐いた。
「…復讐、って言うのも変な話だけど、このまま終われない。
ここまで話を聞いたなら、あなたにも協力してもらうけど、それでもいいのね?」
そう尋ねたヌナに、俺は思わず笑みが溢れそうになるのを必死に押さえた。
いいも何も、俺はそれを待ってたんだよ、ヌナ。
「…うん、協力してあげる」
ヌナの共犯者になれるって、こんなに特別なことはないでしょ?
「…SEVENTEEN、わかるよね。
彼らのこと、どうしても、傷つけずにはいられないの。私。」
そう言うヌナの顔は、綺麗なのにどこか不幸を孕んでいて、危うくて、関わっちゃいけないと思うのに気になって仕方ない。
そんな魔性な雰囲気だった。
「…ヌナのためなら、なんでもするよ」
そう言って、ヌナの手をとって、その真っ白な手の甲に口付けを落とした。
まるで従者が女王に忠誠を誓うみたいに。
何故かわからないけど、ヌナ、あなたになら身を滅ぼされてもいいと思えてしまうくらい、ヌナに焦がれてしょうがないんだ。
「…巻き込むつもりなんて、なかったのに」
そう言ってヌナは、静かに、はらりと一粒だけ涙をこぼした。
それはあまりにも綺麗で、残酷で。
俺は我慢できずに、ヌナの桜色の唇にそっと自分のものを重ねた。
ヌナは、拒否しなかった。
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作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時