femme fatale (ページ38)

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「マークさんは悪くないです、私が先にお伝えしてなかったのもいけないですし

…アメリカーノは差し入れとして持っていこうと思ってたんです。

まさかエレベーターで待ち伏せされてるなんて思っても見なかったけど」

なんて眉を下げて笑うAヌナの横顔はすごく綺麗で。

嗚呼、どんどんと陽が傾いていく。

オレンジ色の光がヌナの周りをスポットライトみたいに照らした。

暖かい色に包まれたヌナの髪や瞳が、ヘーゼル色にきらきらと輝く。

綺麗だ、なんて漠然思った。

まるで映画のワンシーンみたいに、やけに輝いて見えた。

なんてことないビルの屋上で、アメリカーノを手に風に吹かれているだけなのに、

なんでこの人は、こんなに綺麗なんだろう。

「…ヌナ、さっきは無神経でごめん。

でもおれ、もっとヌナのこと、知りたい」

後先考えずに口に出す癖。

それは勿論物事を悪い方向に運ぶこともあるし、

反対に良い方へ向かう手助けをすることだってある。

「…マークって呼んで」

そう溢した俺に、ヌナは驚いたように目をぱちぱちと見開いたあと、おかしそうに笑った。

「ふふ、可愛いね、

マーク」

心臓が、どくん、と大きく鳴った気がした。

「よし、戻ろっか。

…ほら、マーク？行かないの？」

ぐーっと伸びをした後、立ち上がってこちらに顔を向けるヌナ。

どうしよう、おれ、

もっとヌナの視界に入りたい。

ヌナのこと知りたい。

ヌナにおれのこと、知ってほしい。

心の奥の方からどんどんと湧き上がってくる思いに自分でもどうやって収集をつけたらいいかわからない。

…とりあえず今は、やっぱり自分の気持ちに素直になろう。

「…ヌナって年下嫌い？」

「…年下にばっかり囲まれてたから、好きか嫌いかなんて考えたことなかったかも」

なんて思い出すように笑って見せるヌナ。

どくどくと早く鼓動を刻む心臓を誤魔化すように、ほろ苦いアメリカーノを口に含んだ。