. ページ37
.
ポーン、とまた電子音が響いて、エレベーターの扉が開いた。
ふわ、と箱の中に吹き込んでくる風に髪がそよそよと揺れる。
はっとして開くボタンを押せば、ありがとうございます、とヌナが屋上に足を踏み入れる。
それを確認して自分もエレベーターから降りた。
昼時でも無く、陽が傾き始めてぬるい風が吹き抜ける屋上には、誰もいなかった。
ヌナは併設されたベンチに腰掛けると、手に持っていたカップのキャリーを置いて、ベンチの隣のスペースをとんとん、と叩いた。
座れってことで、いいんだよな。なんて恐る恐る隣に腰掛ければ、ヌナはキャリーの中からアメリカーノをふたつ取り出して、ひとつを俺の方へ差し出した。
「これ、どうぞ」
「え、でも…」
誰かのためにカフェで買ってきたんじゃ、なんて思って手を出せないでいると、
「大丈夫です、もともとマークさんにあげようと思ってたので」
なんて、本当かどうかわからない言葉を言われて仕舞えば、おとなしく受け取るしか術はなかった。
手の中のアメリカーノの氷を見つめて、躊躇いながら口を開いた。
「…あの、その、さっきは…」
「さっきはごめんなさい、大人気のない言い方でしたよね」
どうやって話を切り出そうか、また話を蒸し返していいものか、なんて考えているうちに、ヌナの口から出てきたのは予想もしていなかった謝罪の言葉だった。
「っえ、!…いや、あれは俺が、!」
「気になっても仕方ないです、私きっと、未練たらたらな顔してたんだと思います」
なんて、さっきの冷たい表情とは変わって、どこか吹っ切れたように空を見上げて話すヌナに、なんとも言えない気持ちになった。
1357人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時