忘れられない ページ4
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side DINO
僕たちのデビュー日が近づくと、どうしても思い出してしまう、
あの日、一番幸せになれるはずだったあの日に、僕たちの前からいなくなってしまった、
ヌナのことを。
僕が事務所に入った頃には、ヌナはもうとっくに女子のトップに立っていた。
スンチョリヒョンとジフニヒョン、スニョンイヒョンと肩を並べて練習に励むヌナは、それはそれはかっこよくて、こんなに綺麗に、蝶が舞うみたいに踊る人もいるんだなぁ、って感心したのを今でも覚えている。
ヌナは実力はもちろん十分すぎるほどにあったけど、数ある芸能事務所の中でも一番きついと噂されているうちのレッスンを淡々とこなし、終わったら自主練をして、僕たちの練習にも付き合ってくれて、とにかくすごい人だった。
そして何よりも救われていたのは、その抱擁力だった。
僕たちはまだ幼い頃に親元を離れて、必死に毎日練習をして、心がすり減るような競争社会にいた。
その中で、すぐに変化に気づいてくれて寄り添ってくれたのは、他でもないヌナだった。
ある時はスニョンイヒョンとミンギュヒョンの間に入ったり、ある時は泣きながら練習室を出ていったソクミニヒョンを追いかけていったり、難しい顔をしているスンチョルヒョンの手を引いていったり、とにかく僕らは数え切れないくらい、ヌナに救われていた。
もちろん僕も例外じゃなくて、今まで過ごしてきた自分と、練習生として年下の自分のギャップに悩んでいた時、ヌナは何も言わずに連れ出してくれた。
僕から無理やり話を聞くわけでもなく、ただ寄り添ってくれたヌナに、僕は自然とぽつぽつと悩みを打ち明け始めていた。
全てを話し終わった後にはなんだかすっきりしていて、ヌナもそれをわかっていたみたいに、
「チャニなら大丈夫。全部うまくいくよ」
と、僕を優しく抱きしめながらおまじないのような言葉をかけてくれた。
それからというもの、緊張している時や辛い時にはヌナのもとへ行って、その腕に抱き締めてもらいながらおまじないをかけてもらっていた。
ヌナの腕の中で、その魔法の言葉をかけてもらうと、本当になんでもできるような気がして、ヌナは魔法使いなのかと真剣に思ったことだってあった。
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作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時