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「っ、久しぶりどころじゃない、6年も、どこに行ってたんだよっ、」
「うん、…ごめんね、何も言わずにいなくなって、」
「っ、ほんとに、僕がどんな気持ちでっ、…!」
握りしめた小さな手に縋れば、ぽろぽろと勝手に涙が溢れる。
「…うん、ごめんね、」
Aは僕の頭を優しく撫でて謝るだけだった。
「…あの、ご気分悪いようでしたら少し座られますか、?」
ショップのスタッフさんが声をかけてきた。そりゃそうだ。店の中で急に男が泣き出すんだから、何かあったと思うに違いない。
「大丈夫です、すみません、久しぶりに再開したので驚かせてしまったみたいで…」
Aはそう言って僕の手をとった。
僕は、自分の素性がばれるわけにもいかないとただ下を向いていた。
涙を拭いてAの手に導かれるままに歩いていく。
エレベーターに乗り込んで扉が閉まれば、Aと僕、2人だけの空間だった。
「…ジスくん、顔あげて?」
僕の名前を呼ぶ声に、また涙が溢れそうになる。
どれだけ、その声を望んだか、僕の名前を呼んで、僕に触れて欲しいと願ったのか、
Aはきっと知らないんだろうね。
「ジスくんは今日オフなの?」
そう僕に問いかけるAに頷く。
「…じゃあまだジスくんといられるね」
Aがそう言い終わったのと同時に、エレベーターの扉が開いた。
そのフロアは地下二階の駐車場。
Aは僕の手を取ったまま歩き続けて、そしてとある車の前で止まった。
「…ジスくん、乗って?」
Aはこちらを見つめながらそう言った。
僕は何を言うでもなく、頷いた。
Aと一緒にいられるなら、どこにいても、何をしてもいいとさえ思えた。
助手席に乗り込んでスマートフォンを取り出す。
迎えに来てくれるはずだったマネヒョンに、
"友達と会ったから一緒にご飯を食べて帰る。迎えは大丈夫"
とだけ連絡を入れてスマートフォンをポケットの中に戻した。
隣を見ればAがエンジンをかけているところだった。
ねぇ、いつのまに免許取ったの?これは誰の車?Aの?それとも誰か、男のなの?
なんて聞きたいことは山ほどあるのに、何も口から出ていきやしない。
「…私のお家、近くなの。そこでもいい?」
なんて尋ねるAに、やっぱり僕は頷くことしかできなかった。
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作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時