femme fatale (ページ20)

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今にも心臓が飛び出してしまいそうだった。

目の前でナンバーキーを解除しているAを見つめながら、これは夢なんじゃないかと何度も心の中で疑った。

「スンチョルくんたちの住んでるような広いお家じゃないけど、入って…？」

そう言われて手を引かれれば、俺にはその手に導かれることしかできなくて、

バタン、とドアの閉まる音がすれば、そこは完全に俺とAだけの空間になった。

綺麗なパンプスを脱いで部屋に上がるAに見惚れていると目が合ってしまったので慌てて自分も靴を脱ぐ。

変な靴下履いてきたりしてないよな、と思ったけどどうやら大丈夫だったみたいだ。朝の俺に感謝した。

「ごめんね、ソファとかなくて…
ベッドに座って大丈夫だから」

なんて声をかけられるけど、俺はその場に立ち尽くすことしかできなかった。

広めのワンルームは綺麗に整理されていたけど、ところどころ女の子らしく飾られたその部屋に、Aの家に来たんだと実感がして心臓がどきどきとうるさい。

「お茶、飲んでて？

わたし汗かいちゃったから、シャワーだけ浴びてくるね？」

「あ、A、…！」

なんて言うなりAは廊下に消えていってしまった。

どうやっても正気になんてなれないこの状況に、一度落ち着こうとベッドに腰をかける。

綺麗にメイキングされたベッドに、毎日Aが寝ているのかと思うとなんだかいけないことをしている気分だった。

なんでいなくなったんだ、今までどこで、何してたんだ。

聞きたいことは山ほどあるはずなのに、Aの瞳に見つめられてしまうと、その虜になったみたいに何もいえなくなってしまう。

「落ち着け、チェスンチョル…」

そう呟いたのも束の間、廊下の方からシャワーの音が聞こえてきてなんだかもう気が気じゃなかった。