. ページ18
.
「っえ、
ーーーーA、?」
そう呟いた声は、誰の耳に届くこともなく空気に溶けていってしまう。
目の前の横断歩道で信号待ちをしている人々の中に、その姿を見つけて、まるで時間が止まってしまったみたいに体が動かなくなる。
ぱっ、と横断歩道の信号が赤から青に変わって、歩き出す人たちの中に、やっぱり君はいて、
見間違いじゃないよな、あれは絶対、Aだよな。
なんて思って、地面に縫い付けられたように動かない足をなんとか持ち上げて、俺は駆け出した。
横断歩道を渡り切ったところでAの手首の細い手首を掴む。
「きゃ、!」
昔と変わらない、鈴の音のように可憐な声が聞こえて、少しの不安は確信に変わる。
「…A、だよな」
「…スンチョル、くん?」
振り返ったAは、幼い頃の美貌を残したまま綺麗に歳を重ねていた。まだ少しあどけなかった少女がひとりの女性として目の前に現れたのだ。
俺を見ながらぱちぱちと瞬きを繰り返すAになんだかぐっと胸が詰まる。
Aのチャームポイントのふっくらとした唇が驚いたと言わんばかりに薄く開かれたあと、
ゆっくりと弧を描いた。
「…ひさしぶりだね、」
そう言って眉を下げて笑ったAは、あまりにも綺麗で、喉の奥がびりびりと熱くなって柄にもなく涙が込み上げそうになる。
「今までずっと、どこにっ…!」
掴んだ手をもう離さないようにと握りしめながら、俺はその手に縋った。
Aは表情を変えずに、美しく微笑んだままだった。
その間は、ほんの数秒だった気もするし、何分間もずっとそうしていたような気もした。
「…話さなきゃいけないこと、たくさんあるけど、スンチョルくん有名になっちゃったから、」
そう言って周りを見渡すAの視線を辿ってみれば、街行く人がちらちらとこちらを気にしているのがわかった。
マスクにキャップを被った怪しそうな男が女性に縋っているんだからそれは気になるだろう。俺がこの場にいたとしても、何かあったのかと動向を気にしてしまうに違いない。
1357人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆいか | 作成日時:2023年11月26日 23時