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思わずため息が漏れていたらしい。クプスがこちらを心配そうに見つめているのに気づいた。
「これでいいのか、俺たち」
「これでって?」
「Aだよ、このまま宿舎に帰ってきて、この状況がもっと悪化したら?もう俺たちと会いたくないと言ったら?俺はこの選択を受け入れたこと、一生悔やむかもしれない」
「…ジョンハナ、未来はわからないよ、誰にも。
これでAの記憶が戻るかもしれないし、ジョンハンの言ったようにAが俺たちを拒否するかもしれない。そんなのは誰にもわからない。俺たちにも、A本人にも。
でも俺は、Aを信じるって決めたんだ。
Aが俺たちを嫌いになるはずなんてない。そうだろ?」
クプスは窓の外に視線を移し、流れていく木々や少しずつ表情を変える空を見つめながらそう言った。
普段はなよなよしてるくせに、こういうところで核心をついてくるやつだ。
「さすが、おれたちの統括リーダーさま」
そう言うとクプスは視線をこちらに移して、眉を下げて笑った。
「…伊達にお前らの人生背負ってるわけじゃないからな」
そう言ったクプスの顔は、この世の誰よりも格好良く見えた。
「エスクプスさん、ジョンハンさん」
俺たちが病室に着く頃には、Aはもう身支度を済ませていたみたいだ。毎日身に纏っていた病衣から、あの日、出勤の時に着ていた服に着替えていた。
服に血はついていなかったみたいで、水色のシャツを着て微笑むA。
目の前のAは元気に笑っているはずなのに、その姿を見てどうしてもあの光景がフラッシュバックして、手が震える。
どうやらそれはクプスも同じだったようで、眉間にはしわが刻まれて、ぎゅっと拳を握っているのがわかった。
「…A、荷物俺とクプスに持たせて、Aの手はこっち。」
そう言ってAの持っていたバッグを奪って、空いた手に俺とクプスの手をそれぞれ重ねた。
「宿舎着くまでこのままね」
繋いだ手からは自分と同じような温もりが感じられて安堵する。
もう2度と離れないように、何があっても守れるように、その小さな手を強く握った。
車に乗り込んでからも俺とクプスはAの手を離さなかった。
Aは最初こそ恥ずかしそうにしていたけど、もう慣れたみたいで窓の外の景色を見つめていた。
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ゆいか(プロフ) - ぴょんさん» ぴょんさま、コメント下さりありがとございます!思い出した…と思いきや、でした、笑まだ記憶を戻すには少し時間がかかりそうですので、暖かく見守っていただけたら嬉しいです笑こちらこそ読んでくださってありがとうございます♡ (2022年10月7日 0時) (レス) @page44 id: ebc0952f7b (このIDを非表示/違反報告)
ぴょん(プロフ) - えー!!記憶思い出した!?!!面白いです!!更新ありがとうございます!! (2022年9月29日 23時) (レス) @page39 id: 0051795449 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいか(プロフ) - なのこ5546さん» なのこさま、コメントくださりありがとうございます!すごく嬉しいお言葉ばかりで…大変励みになります、ありがとうございます( ; ; )これからも不定期にはなりますが更新頑張りますので是非また読みにいらしてください♡ (2022年9月23日 0時) (レス) id: ebc0952f7b (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - コメント失礼します🙇♀️小説とっても面白いです!!紅一点がたくさんある中、主人公の記憶がなくなる設定はなかなか無いのでワクワクしながら読んでしまいました。更新楽しみにしておりますこれからも頑張って下さいっ!! (2022年9月16日 12時) (レス) @page29 id: 88c8eec9ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆいか | 作成日時:2022年8月23日 1時